年が明け、1月。

「あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします」
「あけましておめでとうございます。こちらこそ、今年もよろしくお願いします」

玄関先で新年の挨拶を交わす。その隣で、主任が私にしかわからない程度にバツの悪そうな顔をしていた。
理由は、十中八九今回の帰省。契約婚のお飾り妻の私が、自分の帰省について来ざるを得なくなったことを負い目に感じているのだろう。

「今年環ちゃんがおるから、おせち奮発したんよ〜!」
「夜はカニもあるから、いっぱい食べてや」

理由は割愛。年末におずおずと話を持ちかけてきた主任が、おずおずとしながらも切り出すことを止めなかったことが全てだ。
毎年家で一人寝正月をしていた私にとっては、新鮮な年明けになった。だけど、不思議と嫌な気はしないのだ。

「ご飯の準備しとくから、2人は先に荷物置いておいで」

キッチンに向かいつつ言うお義母さんに、主任が僅かに首を傾げる。

「荷物、ってどこに」
「どこって、あんたの部屋に決まってるやん」

カウンターキッチンの向こうで、お義母さんが怪訝そうな顔をした。そりゃそーだ。新婚夫婦なんだもの、同じ部屋を嫌う理由なんて本来はあるはずがない。
斜め後ろから見えないように主任の裾を引くと、彼もまた観念したように小さく頷いた。


主任に案内されて入った主任の部屋は、家具がシングルのベッドにデスク、本棚くらいの生活感のないシンプルな部屋だった。大学進学を機に上京していたはずなので、当然といえば当然かもしれないけれど。

「悪いな、泊まりがけの帰省に付き合わせて。あまつさえ、俺の部屋で寝泊まりなんて」
「いえいえ。家で一人眠こける予定しかなかったですし〜」

帰省をするような家はない。そのことは、結婚の挨拶を不要だと伝えた時点で主任もわかっている。

「主任の部屋ってのはちょっと想定外でしたけど、同じ部屋で休むのも初めてじゃないですし。そんなに気にしないでくださいね」

大袈裟に笑ってみせると、主任はほっとしたように表情を緩めた。契約結婚の相手に、結婚生活を送る上で必要以上の煩わしさを感じさせたくないと思ってくれている。主任は優しい。だから、年末のあの一件に関しても、あれ以降触れてこないのだ。

「せっかくですし、ご実家でしか見られないもの見たいです」
「実家でしか?」
「卒アルとか、昔のアルバムとか」
「……そんなに面白いもんでもないぞ」