これはもしかして……気遣われてる?
やだ、この男にも人の心はあるんじゃない!
なーんて、待機させてもらう分際で上から目線で思ったのも束の間。
「最終的に数字が挙がっていればいいんだからな。自己管理も仕事のうちだぞ」
前言撤回ッ!
この言葉、この口調。この男は、私の心配なんかこれっぽっちもしちゃいない。
口を開けば、仕事とか数字とか成績とか新規案件とか! この男に、人を思いやる気持ちなんてないんだわ。
どんな状況に陥ったって、こんな仕事の鬼とだけはぜーったいに相容れない!
完全に油断した。
油断、と言うにはあまりにも失態が過ぎていたように思うけれど。
土曜日の夜21時。怒涛の1週間を終えて疲れ切っていた私は、気分転換にと路地裏にあるバーの扉を開いた。
色々と面倒なので普段はあまり特定のお店に行くことはない私の、数少ないお気に入り。オーセンティックな雰囲気が心地いいお店だ。
……そう、落ち着きたくてここを選んだ。
いつものクセで足元はやっぱりハイヒールだけど、メッセージアプリを開いて誰かに連絡することもなかった。静かに、日常の忙しさから逃れるようにお酒が飲みたいだけだった。それなのに。
「タマちゃん。やっと会えた」
背後でお店の扉が開いた音がして、あぁまたお客さんが来たんだなぁーなんてボケッと考えていると、右隣に人影が現れたのだ。
聞き覚えのある声がして反射的に振り向くと、すぐ隣で、見覚えのある茶髪が揺れていた。
「ジ……く……」
驚きからか疲れからか、はたまた恐怖からだったのか。声はうまく出なかった。
あの日、ハイボールバーで別れて、もう二度と会うことはないと思っていた。そんな人物の突然の登場に、私は目を見開くことしかできない。
「どうして、ここに……」
「連絡しても返してくれないし、直接会いに行くしかないなって思って。ここ、たまに来るって言ってたでしょ? 俺の予想、大アタリ」
……言った。確かに言ったわ。私のバカ。
向かうお店を選びあぐねた時、私はこの人をこのお店に連れてきた。
ここのお店好きなんだよね、なんて呑気に言って。まさか、こんな事態になるなんてつゆ知らず。
何より……このお店を教えていたこと自体を失念していた私は、本当に大バカ者だ。
「俺、ショックだったんだよ。タマちゃんも、俺と同じ気持ちでいてくれてると思ってたから。弄ばれてたんだー、ってさ」
「……それは」
やだ、この男にも人の心はあるんじゃない!
なーんて、待機させてもらう分際で上から目線で思ったのも束の間。
「最終的に数字が挙がっていればいいんだからな。自己管理も仕事のうちだぞ」
前言撤回ッ!
この言葉、この口調。この男は、私の心配なんかこれっぽっちもしちゃいない。
口を開けば、仕事とか数字とか成績とか新規案件とか! この男に、人を思いやる気持ちなんてないんだわ。
どんな状況に陥ったって、こんな仕事の鬼とだけはぜーったいに相容れない!
完全に油断した。
油断、と言うにはあまりにも失態が過ぎていたように思うけれど。
土曜日の夜21時。怒涛の1週間を終えて疲れ切っていた私は、気分転換にと路地裏にあるバーの扉を開いた。
色々と面倒なので普段はあまり特定のお店に行くことはない私の、数少ないお気に入り。オーセンティックな雰囲気が心地いいお店だ。
……そう、落ち着きたくてここを選んだ。
いつものクセで足元はやっぱりハイヒールだけど、メッセージアプリを開いて誰かに連絡することもなかった。静かに、日常の忙しさから逃れるようにお酒が飲みたいだけだった。それなのに。
「タマちゃん。やっと会えた」
背後でお店の扉が開いた音がして、あぁまたお客さんが来たんだなぁーなんてボケッと考えていると、右隣に人影が現れたのだ。
聞き覚えのある声がして反射的に振り向くと、すぐ隣で、見覚えのある茶髪が揺れていた。
「ジ……く……」
驚きからか疲れからか、はたまた恐怖からだったのか。声はうまく出なかった。
あの日、ハイボールバーで別れて、もう二度と会うことはないと思っていた。そんな人物の突然の登場に、私は目を見開くことしかできない。
「どうして、ここに……」
「連絡しても返してくれないし、直接会いに行くしかないなって思って。ここ、たまに来るって言ってたでしょ? 俺の予想、大アタリ」
……言った。確かに言ったわ。私のバカ。
向かうお店を選びあぐねた時、私はこの人をこのお店に連れてきた。
ここのお店好きなんだよね、なんて呑気に言って。まさか、こんな事態になるなんてつゆ知らず。
何より……このお店を教えていたこと自体を失念していた私は、本当に大バカ者だ。
「俺、ショックだったんだよ。タマちゃんも、俺と同じ気持ちでいてくれてると思ってたから。弄ばれてたんだー、ってさ」
「……それは」



