元野さんと同い年のMR……?
情報が記憶を掠めたのとほぼ同時。廊下の向こうから、リュックを背負った主任が歩いてきた。
元野さんも気付いたらしく、彼が声をかける。

「お疲れ様です」
「お疲れ。悪かったな、先に帰らせて」
「いえ。さっきの方と話されてたんですか?」
「あぁ」

小澤もお疲れ、と投げられた声は明るい。元野さんとの会話は続いた。

「勉強熱心だなぁとは思ってたんだけど、そこに薬剤師の資格も持ってるらしくてさ。つい、色々聞いてたら遅くなった」
「へぇ! 主任が言うってよっぽどですね」
「……どういう基準だそれは」
「だって若いのに。すごいじゃないですか。俺もまた会ったら話してみたいなぁ」
「言っておこうか? 今度飯でもって、連絡先交換した」

ポケットから取り出されたスマホは、主任の私用スマホだった。どうやら、本当に意気投合したらしい。だけど……。

「主任。その人の会社って……」
「ん? ……あぁ、泰煌製薬って会社。聞いたことあるか?」

泰煌製薬。CMで流れているような、世間一般に知れ渡った会社名ではない。業務で関わることもない。だけど、私はその会社の名前をよく知っている。心臓がどくんと、一つ大きく跳ねた。

「俺の仕事のことも熱心に聞いてくれて、いい人だったよ。──泰煌製薬の遠山さん」

違う分野であっても、率先して知見を広げようとする。そういう姿を、私もよく知っている。

遠山健太。
それは、大人になってから私が唯一お付き合いした。それでいて、容赦なく傷つけてしまった人の名だ。