「……やだ、な」
ご飯を諦めて、再び背中をソファーに凭せ掛ける。うつらうつらしているうち、微睡みに落ちた。
潜めたような扉の開く音がして、意識が僅かに浮上する。重い瞼を持ち上げると、辺りは真っ暗だった。
「うわ。びっくりした」
重い体を持ち上げたところで、リビングの電気がつけられた。部屋に入ってきた主任が、私の姿を認めるなり声を上げる。
「おかえりなさい」
「ただいま。悪い、起こしたか」
主任の問いに、力なく首を振る。寝入っていたわりに、変わらず体はだるい。
「ごめんなさい、主任。今日、大変だったでしょう。病院も、引き継いだばかりなのに」
「大したことない。別日にずらせそうな案件はリスケして、他は問題なく終わった。急遽の助っ人ですって言ったらみんな笑ってくれたしな。気にするな」
それより、と主任が私の元へ近付いてくる。
「顔、まだ赤いな。薬は飲んだのか」
「いえ……。ごはん食べなかったから、飲んでないです」
「……そうか。この中に食べられそうなものはあるか」
寝起きでぼうっとする私の前にしゃがんで、主任が差し出してきたのはスーパーのビニル袋。中身は、パウチのお粥やゼリー、スポーツドリンクなど。冷えピタもある。
「買ってきてくださったんですか」
「冷蔵庫の中、ろくなもんなかっただろ。もっと早く気付いて帰って来れたらよかったんだが、すまん」
「いえ……。嬉しいです。ありがとうございます」
ぼうっとする頭で、お粥を指差す。食欲はないけれど、朝から何も食べていない胃が空腹を訴えていた。
「わかった、すぐに準備する」
私の手元にスポーツドリンクを置いて、スーツ姿のままキッチンに向かっていく主任。飲もうとしたところで、ペットボトルのキャップが既に一度開けられていたことに気がついた。
「……さすがだぁ」
軽い力で蓋を開け、ペットボトルを呷る。いつの間にか乾き切っていた喉に、スポーツドリンクの冷たさが沁みた。
ふと見上げた時計は20時過ぎを指している。……え? 時計、壊れてる?
手元に転がっていたスマホで確認するも、時間は正確だ。嘘、でしょ。
「ちゃんと冷えピタ貼っとくんだぞ」
「…………」
「水分もしっかり摂れよ」
キッチンを覗き込むと、シャツ姿のままの主任がカウンター越しに見える。その姿は、どことなくいつもより荒れて見えた。
2人分の案件をこなして、事務処理までしてたらまずこんな時間には帰ってこられない。それでもここにいるってことは……急いで、帰ってきてくれたんだ。
明かりがついた部屋に、主任の低い声とキッチンの物音が響く。リビングはもう、私の知らない部屋ではなかった。
主任が用意してくれたお粥を平らげ、薬を飲んだ。
ご飯を諦めて、再び背中をソファーに凭せ掛ける。うつらうつらしているうち、微睡みに落ちた。
潜めたような扉の開く音がして、意識が僅かに浮上する。重い瞼を持ち上げると、辺りは真っ暗だった。
「うわ。びっくりした」
重い体を持ち上げたところで、リビングの電気がつけられた。部屋に入ってきた主任が、私の姿を認めるなり声を上げる。
「おかえりなさい」
「ただいま。悪い、起こしたか」
主任の問いに、力なく首を振る。寝入っていたわりに、変わらず体はだるい。
「ごめんなさい、主任。今日、大変だったでしょう。病院も、引き継いだばかりなのに」
「大したことない。別日にずらせそうな案件はリスケして、他は問題なく終わった。急遽の助っ人ですって言ったらみんな笑ってくれたしな。気にするな」
それより、と主任が私の元へ近付いてくる。
「顔、まだ赤いな。薬は飲んだのか」
「いえ……。ごはん食べなかったから、飲んでないです」
「……そうか。この中に食べられそうなものはあるか」
寝起きでぼうっとする私の前にしゃがんで、主任が差し出してきたのはスーパーのビニル袋。中身は、パウチのお粥やゼリー、スポーツドリンクなど。冷えピタもある。
「買ってきてくださったんですか」
「冷蔵庫の中、ろくなもんなかっただろ。もっと早く気付いて帰って来れたらよかったんだが、すまん」
「いえ……。嬉しいです。ありがとうございます」
ぼうっとする頭で、お粥を指差す。食欲はないけれど、朝から何も食べていない胃が空腹を訴えていた。
「わかった、すぐに準備する」
私の手元にスポーツドリンクを置いて、スーツ姿のままキッチンに向かっていく主任。飲もうとしたところで、ペットボトルのキャップが既に一度開けられていたことに気がついた。
「……さすがだぁ」
軽い力で蓋を開け、ペットボトルを呷る。いつの間にか乾き切っていた喉に、スポーツドリンクの冷たさが沁みた。
ふと見上げた時計は20時過ぎを指している。……え? 時計、壊れてる?
手元に転がっていたスマホで確認するも、時間は正確だ。嘘、でしょ。
「ちゃんと冷えピタ貼っとくんだぞ」
「…………」
「水分もしっかり摂れよ」
キッチンを覗き込むと、シャツ姿のままの主任がカウンター越しに見える。その姿は、どことなくいつもより荒れて見えた。
2人分の案件をこなして、事務処理までしてたらまずこんな時間には帰ってこられない。それでもここにいるってことは……急いで、帰ってきてくれたんだ。
明かりがついた部屋に、主任の低い声とキッチンの物音が響く。リビングはもう、私の知らない部屋ではなかった。
主任が用意してくれたお粥を平らげ、薬を飲んだ。



