突然ですが、契約結婚しました。

主任の恋に口出しする気は毛頭なかった。それなのに黙っていられなかったのは、私の中で湧き上がった怒りのせい。

「傷付くことが当たり前になってることに腹が立って。彼女の為ならどんなことでも厭わない主任にも腹が立って。傷ついて当然みたいな顔で、そんなこと、あるわけないのに」

めちゃくちゃだ。何を言ってるのかも、何を言いたいのかもわからないよ。上手く言葉に出来ないことが恨めしい。
だけど、

「タマちゃんは、あいつに幸せになってほしいって思ってくれてるんだね」

タイガさんは私のそんな感情を掬い上げてくれた。俯いていた顔を持ち上げると、目尻を緩やかに下げたタイガさんと視線が絡む。

「え……?」
「俺には、あいつに傷付いてほしくないんだって聞こえたよ」

にこにこと微笑みながら、それでも投げられる言葉は力強い。それが正解だと示すかのように。
不意に投げられた言葉を受け取ると、自分でも驚くほど、すとんと落ちた。
そっか。そうなのか。私は、主任が傷付くことが悔しかったのか。だからこんなに腹が立ったのか。

「私、主任のこと嫌いだったはずなのになぁ……」

血も涙もない、大嫌いなむかつく鬼上司──ただそれだけを思うには、色んな一面を知りすぎた。
結婚してから、主任の不器用さを知った。その裏側の優しさを知った。そんな主任との生活を、少なからず心地いいと感じているから。何より……叶わない想いを抱えて苦しむ姿が、あの頃の自分と重なるからこそ。

「彼女との思い出が、呪いじゃなくて優しい記憶になればって……そう思います」

彼女を想い泣きそうに笑うのではなく、目を細めて懐かしむ日が来ますように。
……なんて、主任はそんなこと、少しも望んでないかもだけど。


お酒は弱くない自負があったけど、激務を乗り越えたばかりの体は思いの外早くアルコールが回った。

「ねむい……」

睡魔に襲われ、欠伸が出る。スマートウォッチで時刻を確認すると、20時30分を回ったところだった。

「明日も仕事でしょ? 寝ちゃう前に帰りなね」
「うーん……んんん……」
「タマちゃん?」
「……帰りづらい……」

突っ伏して言うと、頭上で笑い声が起きた。ちょっとちょっとぉ。こちとら笑い事じゃないんですけど〜。
むくれていると、背後でお店の扉が開く音がした。お客さんか〜なんて思っていると、タイガさんが「お」と声を上げた。