突然ですが、契約結婚しました。

カウンターに肘をついて、タイガさんがお酒を作る様をぼうっと眺めた。ミキサーに生のトマトを入れて……へぇ、トマトジュースが出来た。それからグラスの淵に何かがついて、シェイカーにはお酒が入れられていく。

「お待たせしました」

コースターの上に置かれたタンブラーの中は、鮮やかな朱色で満ちていた。顔を上げると、タイガさんと目が合う。

「これ、ブラッディーメアリーでしたっけ?」
「そうそう。明日、仕事でしょ。潰れたら困るからね」
「……ありがとうございます」

くっそぅ、優しさが沁みるなぁ。
トマトジュースベースで二日酔いしにくいカクテルを作ってくれることも、私が1人で来店した理由を聞こうとしないことも。
やっぱり私、いいお店見つけたんだ。


日曜日の夜は比較的お客さんも少なく、店内の空気もより穏やかに思えた。

「最近、仕事忙しいって聞いたけど、ちゃんと休めてる?」

客足の落ち着いたタイミングで、タイガさんから声がかかる。なぜそれを、と思ったけど、すぐに主任の姿が頭に浮かんだ。
休日はお互い自由に過ごしているからタイガさんと会っていても不思議じゃないし、夜遅くに帰ってきた日はここに来ていたのかもしれない。基本は一緒にご飯を食べるけれど、予定がある時はご飯が不要であることだけを連絡するのが私達のスタイルだ。

「大型案件が片付いたので、ひとまず落ち着きました。反動で、昨日はお昼まで寝ちゃいましたけど」
「あはは、そうなんだ。ゆっくり休めたならよかった」
「休みすぎて、起きたら体痛かったです。歳ですかね」
「何を。まだ20代でしょー」

カウンターの向こうで氷にナイフを入れながら、タイガさんが軽く笑う。主任の友達ってことは、タイガさんも30代なのかな。

「……タイガさんと主任って、どういう繋がりのお友達なんですか?」

3杯目のカクテルをグラスの中で泳がせながら、ふと訊ねてみた。タイガさんはちらりと私を見てから、再び視線を落とす。

「何だと思う?」
「え、クイズになるような話題ですか? これ」
「気まぐれに付き合ってよ。あ、一発で当ててね」
「うわ、ムチャクチャだぁ!」

えー、なんだろ。主任、出身は大阪だもんなぁ。大学は、都内の名門だったような。高校時代はさすがに地元にいたよね?

「うーん……。大学生の時のバイト仲間、とか?」
「ぶっぶー、ハズレ」
「即答!」

あまりに早い返答に、こちらの切り返しのスピードも思わず上がった。それを聞いて、タイガさんがおかしそうに笑う。