険のある物言いに主任は少し面食らった様子で、それが尚更私の中のモヤモヤを掻き立てた。
「……主任の恋愛に口を出す気も権利もないですが、さすがにガッカリしました」
「……え」
背中越しに投げた言葉に、主任が振り返る。恐らく私は、とても険しい顔を彼に向けているのだろう。
「好きな人の旦那さんの話なんて聞きたくもないはずなのに、何を穏やかに聞いてるんですか。口を挟むタイミングなんて、いくらでもあったのに」
ずっと何かが渦巻いていた。その間、何が渦巻いているのかわからないでいた。でも、今、主任の背中を見てようやくわかった。
「私が仮初の妻だったからよかったですけど、もし私が本物の奥さんだったら、途中でブチギレてますよ。新婚の夫を駅まで駆り出されたり、小さい頃の結婚の約束の思い出話を聞かされたり。幼馴染の2人にとっては普通でも、“妻”の立場からすれば普通じゃないことがいっぱいあった。
主任がそれに気付けないなんて、そういう非常識を諌めないなんて、思いたくなかった」
これまでに私が見てきた主任は、けしてそんな簡単なことに気付けない人じゃない。そう信じていた。
「そうやって後生大事に見守るのが恋ですか? 周りを気にせず、穂乃果さんだけを大事にするのが主任なんですか?」
恋は人を馬鹿にする。狂わせる。
そうなることは、私も知っている。だけど。
「穂乃果さんが中心で、自分が傷つくことは当たり前で。そこに、何の違和感も持たないで。……そんなの、私の知ってる主任じゃない」
今日の主任は、一体誰だったんだろう。知らない人が隣に座ってた。そんな感覚だけが残っている。
「主任はいつも強気に行動できて、指示や判断は的確で、周りへの気配りも欠かさなくて。そんな主任だから、どれだけ大変でも追いかけてきた。なのに」
止まらない。堰が切れたように、言葉が次々と押し寄せる。言葉の選別なんて出来ないままに。
「これまで必死に追いかけてきた私がバカみたいだって、そんなこと、思いたくなかった」
喉の奥が抓まれたように痛んだ。感情は昂っているのに、声は存外平坦だったことに驚いた。
主任は静かに私を見ていた。まっすぐ視線をこちらに向けて、言葉は何も返ってこない。
私もまた主任を見つめ返してみるけれど、この人の表情は、結婚前も今も、いつだって読み取りづらい。
「まぁ、これはあくまでも私の感想なので。押し付けられても困りますよね。忘れてください」
「……主任の恋愛に口を出す気も権利もないですが、さすがにガッカリしました」
「……え」
背中越しに投げた言葉に、主任が振り返る。恐らく私は、とても険しい顔を彼に向けているのだろう。
「好きな人の旦那さんの話なんて聞きたくもないはずなのに、何を穏やかに聞いてるんですか。口を挟むタイミングなんて、いくらでもあったのに」
ずっと何かが渦巻いていた。その間、何が渦巻いているのかわからないでいた。でも、今、主任の背中を見てようやくわかった。
「私が仮初の妻だったからよかったですけど、もし私が本物の奥さんだったら、途中でブチギレてますよ。新婚の夫を駅まで駆り出されたり、小さい頃の結婚の約束の思い出話を聞かされたり。幼馴染の2人にとっては普通でも、“妻”の立場からすれば普通じゃないことがいっぱいあった。
主任がそれに気付けないなんて、そういう非常識を諌めないなんて、思いたくなかった」
これまでに私が見てきた主任は、けしてそんな簡単なことに気付けない人じゃない。そう信じていた。
「そうやって後生大事に見守るのが恋ですか? 周りを気にせず、穂乃果さんだけを大事にするのが主任なんですか?」
恋は人を馬鹿にする。狂わせる。
そうなることは、私も知っている。だけど。
「穂乃果さんが中心で、自分が傷つくことは当たり前で。そこに、何の違和感も持たないで。……そんなの、私の知ってる主任じゃない」
今日の主任は、一体誰だったんだろう。知らない人が隣に座ってた。そんな感覚だけが残っている。
「主任はいつも強気に行動できて、指示や判断は的確で、周りへの気配りも欠かさなくて。そんな主任だから、どれだけ大変でも追いかけてきた。なのに」
止まらない。堰が切れたように、言葉が次々と押し寄せる。言葉の選別なんて出来ないままに。
「これまで必死に追いかけてきた私がバカみたいだって、そんなこと、思いたくなかった」
喉の奥が抓まれたように痛んだ。感情は昂っているのに、声は存外平坦だったことに驚いた。
主任は静かに私を見ていた。まっすぐ視線をこちらに向けて、言葉は何も返ってこない。
私もまた主任を見つめ返してみるけれど、この人の表情は、結婚前も今も、いつだって読み取りづらい。
「まぁ、これはあくまでも私の感想なので。押し付けられても困りますよね。忘れてください」



