予想はしていたことなので、帰宅するなりお風呂に向かう。あ、もちろん主任の手洗いを待ってから。
時間も時間なので、湯船には浸からず今日もシャワーのみだ。
「お先でした〜」
「あぁ。髪はもう乾かしたのか」
「さすがにまだです。ドライヤー持ってきたんで、こっちで乾かそうかと」
リビングで深夜のニュース番組を見ていた主任が、ソファから腰を浮かせる。入れ替わるようにして、ソファの足元にあるコンセントにプラグを差し込んだ。
すっぴんを見せることにももう慣れた。というより、初見の時から主任が興味なさそうだったので、私も気にしなかったんだけど。
「じゃ、使い終わったらそのまま置いといてくれ。後で使う」
「かしこまりました」
自室から着替えを持ってきた主任をリビングから送り出し、ソファに座ってドライヤーのスイッチを入れる。
「……あ、そうだ」
右手でドライヤーを当てながら身を乗り出して、主任にバレないよう先程持ち込んだクリアファイルを手に取る。中から抜き出したのは、A4サイズのプリント用紙だ。
実はこっそり持ち帰っていた、納品予定商品の一覧のコピー。帰社前に確認はしたけれど、ダブルチェックをしておきたくて荷物に忍ばせたのだ。
「これくらいなら、髪を乾かしてる間にも出来るからセーフだよね」
背凭れに体を預けて、ドライヤー片手に資料を確認する。……あぁ、でも瞼が重いや。主任が戻ってきたら確実に雷が落ちるから、早めに終わらせなくっちゃ……。
水の中を揺蕩うように、体が心地よく沈んでいく。ふわふわ、気持ちいいなぁ。しばらくこのままでいたいなぁ。
って、あれ? 私……何してたんだっけなぁ……。
「……んのアホ」
水面を弾くように、低い声が遠くで響いた。うっすら視界が翳って誰かの名前を虚ろに呼んだような気がしたけど、記憶は水に溶けて消えた。
「新規病院の大型案件……お疲れ様でしたーっ!」
「お疲れ様でしたー!」
無数の明るい声と共に、グラスが軽快にぶつかる音が重なる。8月も半ばを過ぎたということと商品の納品が一通り完了し、連日の残業続きから解放されたことを差し引いても、金曜夜の熱は高い。
「いやー、無事に完了してよかったね!」
「ほんとに。ずっとバタバタでしたもんね」
アルコールが体内を駆け巡り、新規の案件を無事に完了出来た達成感から場がいつも以上に饒舌になっている。
主任が引っ張ってきた案件だけど、そのフォローは日を増すごとに方々で行われるようになり、気が付けば事務職や配送スタッフも含めて部署の半分くらいの人数がこの案件に携わるようになっていた。
時間も時間なので、湯船には浸からず今日もシャワーのみだ。
「お先でした〜」
「あぁ。髪はもう乾かしたのか」
「さすがにまだです。ドライヤー持ってきたんで、こっちで乾かそうかと」
リビングで深夜のニュース番組を見ていた主任が、ソファから腰を浮かせる。入れ替わるようにして、ソファの足元にあるコンセントにプラグを差し込んだ。
すっぴんを見せることにももう慣れた。というより、初見の時から主任が興味なさそうだったので、私も気にしなかったんだけど。
「じゃ、使い終わったらそのまま置いといてくれ。後で使う」
「かしこまりました」
自室から着替えを持ってきた主任をリビングから送り出し、ソファに座ってドライヤーのスイッチを入れる。
「……あ、そうだ」
右手でドライヤーを当てながら身を乗り出して、主任にバレないよう先程持ち込んだクリアファイルを手に取る。中から抜き出したのは、A4サイズのプリント用紙だ。
実はこっそり持ち帰っていた、納品予定商品の一覧のコピー。帰社前に確認はしたけれど、ダブルチェックをしておきたくて荷物に忍ばせたのだ。
「これくらいなら、髪を乾かしてる間にも出来るからセーフだよね」
背凭れに体を預けて、ドライヤー片手に資料を確認する。……あぁ、でも瞼が重いや。主任が戻ってきたら確実に雷が落ちるから、早めに終わらせなくっちゃ……。
水の中を揺蕩うように、体が心地よく沈んでいく。ふわふわ、気持ちいいなぁ。しばらくこのままでいたいなぁ。
って、あれ? 私……何してたんだっけなぁ……。
「……んのアホ」
水面を弾くように、低い声が遠くで響いた。うっすら視界が翳って誰かの名前を虚ろに呼んだような気がしたけど、記憶は水に溶けて消えた。
「新規病院の大型案件……お疲れ様でしたーっ!」
「お疲れ様でしたー!」
無数の明るい声と共に、グラスが軽快にぶつかる音が重なる。8月も半ばを過ぎたということと商品の納品が一通り完了し、連日の残業続きから解放されたことを差し引いても、金曜夜の熱は高い。
「いやー、無事に完了してよかったね!」
「ほんとに。ずっとバタバタでしたもんね」
アルコールが体内を駆け巡り、新規の案件を無事に完了出来た達成感から場がいつも以上に饒舌になっている。
主任が引っ張ってきた案件だけど、そのフォローは日を増すごとに方々で行われるようになり、気が付けば事務職や配送スタッフも含めて部署の半分くらいの人数がこの案件に携わるようになっていた。



