「俺の部屋でいいか?」
キスの合間に問いかけられ、ぼうっとする頭で小さく頷く。
その返答を受け取った彼は私を軽々と抱きかかえ、そのままリビングの電気を消して自室の扉を開いた。突然視界が揺れて、私の頭はいっぱいいっぱいになる。
「やだ、重いのに」
「軽いわ」
「絶対嘘っ」
「嘘ちゃうし。危ないから暴れんな」
子どもをあやすような口調で言われて、私はしおしおと大人しくなった。
真緒さんの部屋に足を踏み入れるのは引っ越しの時以来だった。自分の家なのに慣れない景色に、より一層心臓が駆け足になる。
「ははっ、めっちゃドキドキしてる」
「ちょっと。それを言うなら真緒さんもじゃん!」
ベランダから差し込む月明かりがシングルベッドに落ちていた。
丁寧な手付きでそこに下ろされる瞬間、ヘッドボードに置かれた小さな目覚まし時計の針が12時を指しているのが見えた。おとぎ話だったら魔法が解ける頃。だけどこれはおとぎ話じゃなくて、夢でもなくて、紛れもない現実だ。
「うん。緊張してる。いい歳した大人が何言ってんねんって思うやろうけど」
私を見下ろす真緒さんが小さく笑った。
言葉通り、少しの緊張を滲ませて。だけどその瞳には鋭い光を宿して。
「俺、ほんまに好きな女にこうやって触れるの初めてやから」
あぁ──そっか。
真緒さんの言葉でようやく理解した。私も初めてなんだ。
私が相手のことを大好きで、相手もまた私のことを好きでいるこの状況が。
だから落ち着かなくて、狼狽えて、恥ずかしかったんだ。
だけど、胸いっぱいに広がるこの幸福がその他すべての感情を侵食する。
「私の最初と最後をあげるから……真緒さんの最後も、私にちょうだいね」
頬に手を添えて言うと彼は大きく瞳を揺らし、私から視界の大部分を奪った。
降り注ぐ熱に身を委ね、目を閉じ、そして五感全てを集中させる。
好きだけじゃ足りない。どれだけ言葉を尽くしても伝えきれない。
こんなふうに思うのは、後にも先にもあなただけだ。
伝わればいい。そう思って伸ばした手は力強く掴まれて、指が絡められる。瞬間、同じだけの気持ちが返ってきたような気がした。
香ばしい香りが鼻孔に広がり、薄くまぶたを持ち上げると眩しい日差しが目に飛び込んでくる。
眉根を寄せて枕元のスマホを確認すると時刻は間もなく7時で、布団への未練を残しつつも重い体を起こした。
「おはよぉ」
「おはよう」
リビングに顔を出すと、真緒さんがコーヒーをマグカップに注いでいるところだった。
キスの合間に問いかけられ、ぼうっとする頭で小さく頷く。
その返答を受け取った彼は私を軽々と抱きかかえ、そのままリビングの電気を消して自室の扉を開いた。突然視界が揺れて、私の頭はいっぱいいっぱいになる。
「やだ、重いのに」
「軽いわ」
「絶対嘘っ」
「嘘ちゃうし。危ないから暴れんな」
子どもをあやすような口調で言われて、私はしおしおと大人しくなった。
真緒さんの部屋に足を踏み入れるのは引っ越しの時以来だった。自分の家なのに慣れない景色に、より一層心臓が駆け足になる。
「ははっ、めっちゃドキドキしてる」
「ちょっと。それを言うなら真緒さんもじゃん!」
ベランダから差し込む月明かりがシングルベッドに落ちていた。
丁寧な手付きでそこに下ろされる瞬間、ヘッドボードに置かれた小さな目覚まし時計の針が12時を指しているのが見えた。おとぎ話だったら魔法が解ける頃。だけどこれはおとぎ話じゃなくて、夢でもなくて、紛れもない現実だ。
「うん。緊張してる。いい歳した大人が何言ってんねんって思うやろうけど」
私を見下ろす真緒さんが小さく笑った。
言葉通り、少しの緊張を滲ませて。だけどその瞳には鋭い光を宿して。
「俺、ほんまに好きな女にこうやって触れるの初めてやから」
あぁ──そっか。
真緒さんの言葉でようやく理解した。私も初めてなんだ。
私が相手のことを大好きで、相手もまた私のことを好きでいるこの状況が。
だから落ち着かなくて、狼狽えて、恥ずかしかったんだ。
だけど、胸いっぱいに広がるこの幸福がその他すべての感情を侵食する。
「私の最初と最後をあげるから……真緒さんの最後も、私にちょうだいね」
頬に手を添えて言うと彼は大きく瞳を揺らし、私から視界の大部分を奪った。
降り注ぐ熱に身を委ね、目を閉じ、そして五感全てを集中させる。
好きだけじゃ足りない。どれだけ言葉を尽くしても伝えきれない。
こんなふうに思うのは、後にも先にもあなただけだ。
伝わればいい。そう思って伸ばした手は力強く掴まれて、指が絡められる。瞬間、同じだけの気持ちが返ってきたような気がした。
香ばしい香りが鼻孔に広がり、薄くまぶたを持ち上げると眩しい日差しが目に飛び込んでくる。
眉根を寄せて枕元のスマホを確認すると時刻は間もなく7時で、布団への未練を残しつつも重い体を起こした。
「おはよぉ」
「おはよう」
リビングに顔を出すと、真緒さんがコーヒーをマグカップに注いでいるところだった。



