突然ですが、契約結婚しました。

──ちゃんのママとパパ、どっちも指輪してるんだ。いいなぁ、仲良し夫婦の証みたい。

「どう? 真緒さん指輪とかつけるタイプ?」
「オシャレならつけへんけど結婚指輪なら……って、ちょっと待て。婚約指輪、いらんの?」

少し焦ったように話を巻き戻される。
話をそこに戻されると思わなくて、目を瞬かせた。

「うーん。だってもう結婚してるし、つける機会なかなかないかなぁって」
「けど今、結婚指輪との重ね付けとか流行ってるんじゃないのか」
「まぁ、そうやってつけてる人も多いけど……」

仕事の業務的にも、シンプルに一つだけつけている方がスマートなような。
婚約指輪の重要性と実用性を頭の中で浮かべて照らし合わせる。も、やっぱり籍を入れた今のタイミングでは、貰ってもタンスの肥やしにしてしまう未来しか見えない。

「結婚式とかにも特に憧れないし。結婚指輪さえあれば十分かなー」

安い買い物でもなし。私が返答すると、未だ納得いかないといった様子の真緒さん。
手を伸ばして彼の首に腕を回すと、少し驚いたように抱き留めてくれた。

「婚約指輪を贈りたいって、そう思ってくれた気持ちはすごくすごく嬉しい。ありがとう」
「うん」
「けど、あんまり出番のない婚約指輪にお金をかけるより、これからの長い結婚生活のためにそのお金を置いておいたほうが2人のためになるんじゃないかと思うの」

彼の肩に顎を乗せて、顔が見えないから迷わず素直に言える。
今は賃貸マンションだけど、引っ越すこともあるかもしれない。旅行にだってまた行きたい。
いつか……いつか。自信はまだないけれど、私達が親になる日だって来るかもしれない。
私達が叶えるべき未来は無限にある。

「……そうか。それもそうやな」

私の頭をゆっくりと撫でる真緒さんの低い声が、耳元で柔らかく響いた。
あまりにも心地いいそのテンポに、思わず目を瞑る。あーあ、このまま同じ温度で溶けちゃいたい。

「じゃあ……早速、その金の使い道なんやけど」
「使い道?」
「2人で寝るためのベッドを買うのはどうですか」

少しの緊張を含んで、彼の提案はリビングの温かい空気に放たれた。
予想もしていなかった提案に、私は腕をそのままに体を離す。両腕の間には照れくさそうに顔を赤らめた真緒さんがいた。

「お互いに仕事で遅くなることも多いし、1人じゃないとゆっくり休まらんとかで別のままのほうがいいんやったら無理にとは言わんけど」

真緒さんの言葉に首を振ったのはほぼ反射だった。その反応を受け取って、真緒さんの顔色に僅かに喜の感情が浮かぶ。