突然ですが、契約結婚しました。

物申したいなんていう私の強い言葉に、真緒さんは驚いた様子で居住まいを正す。
遠慮なんてしてやらない。

「私、奥さんなのに気を許されてない?」
「は……? 何言ってるんだ、そんなわけないだろ」
「だって、気を許した人には東京にいても関西弁で話すって穂乃果さんが前に言ってた」

今度は私が唇を尖らせる番だった。
訳が分からないというような様子だった真緒さんが、ハッとしてわかりやすく焦る。

「標準語で喋ってたことに深い意味はないぞ! ただ慣れてたからそうしてただけで」
「……うん」

わかってる。真緒さんの中で私に対して線引きしていたわけじゃないことくらい。
でも、と言葉を続ける。

「私の前で関西弁使うのってお酒飲んだ時だけだったから……少なからず気が緩んでただろうし。それに」

言葉を切って、真緒さんの目を真っ直ぐに見据える。

「真緒さんの関西弁が出た時、いつも嬉しかったから」

だから、私の前でも関西弁で話してほしい。
覚悟を決めて言ったつもりでも、言葉はもごもごと口の中でこもった。
当の真緒さんと言えば、目を見開いてから何か言いたげに手を口元に当てている。

「真緒さん……?」
「……それ天然でやってんのずるいわおまえ」
「へ? ……わっ」

真緒さんの腕が伸びてきたと思ったら、鼻をむぎゅっと抓まれた。
何が起こったのかわからないでハテナを並べている私を見て、真緒さんはイタズラに喉を鳴らした。

「職場ではまだしも、今更プライベートで標準語で喋るとか無理やからな」
「……! 望むところです」

立ち止まって、色んなことを確かめる。こうやって向かい合って話せば、色んな希望が出てくるんだなぁ。

「あ……そうや。環に相談したかったんやけど」
「相談?」
「あぁ。指輪のこと」

思いがけないワードが真緒さんの口から出てきて、私は咄嗟にその単語を飲み込むことが出来なかった。
指輪って、あの指輪?

「今までは形式上の夫婦やったから婚約指輪すら渡してなかったけど、こうなった以上、今更やけどちゃんとしたほうがいいんじゃないかと思って」
「あぁ、なるほど……」

つまりは、今からでも婚約指輪を用意しようかということか。
その気持ちはもちろん嬉しい。だけど……。

「婚約指輪はいらないかなぁ」
「え」
「結婚指輪は、真緒さんもデイリーでつけるなら欲しいかも」

実を言うと、ちょっと憧れだったんだよね結婚指輪。
うちの親はどっちともつけてなかったから、幼いながら左手薬指に輝きを添えている夫婦の姿に夢を見ていた。