突然ですが、契約結婚しました。

「一向に収束しませんねぇ、このニュース」
「逮捕者も出てるくらいだからな。芋蔓式に名前が挙がってるんだろう」
「うげー。すごい世界。私には理解できない」
「俺もだ」

背凭れに体を預けて交わす会話はいつも通りのテンションだ。いつも通りにお互いオフの姿で、他愛もない話をして。ちらりと隣を伺うと、端正な横顔が目に入る。
と、視線を感じたのか主任がこちらを見た。
まさか目が合うとは思わず、私は慌てて視線を液晶に戻す。ニュースの話題はベンチャー企業の特集に移ったところだった。

「小澤」

低い声に名前を呼ばれる。何度となく呼ばれてきた声なのにニュアンスは記憶の中のどれとも違って、脈が駆け足になっていくのがわかった。
お互いに部屋着で私なんてすっぴんでいつものようにニュースについてあれこれ言っていたのに、その声色で一瞬にして空気が変わる。

「ん」

再び振り向くと、体を少しだけこちらに向けた主任が少し恥ずかしそうにしながらも両手を広げていた。一瞬、色んなことを考えそうになったのを放り投げ、その胸に飛び込む。
1週間ぶりの主任の温度。胸元に顔を埋めると、主任の匂いが色濃く香る。どんな香水も柔軟剤もいらない。この香りが一番好きだ。

「時間、なかなか取れなくてごめんな」
「そんなのお互い様です。私だって今週1週間バタバタしてたし」
「仕事が立て込んでこんなに嫌になったのも久しぶりだった」
「……それもお互い様です」

主任の腕に一瞬力が込められて、すぐに緩められた。私が体を少し離すと、青い焔を宿したような瞳に捉えられる。

「俺、自分がどうしたいとか言うばっかりでまだちゃんと言ってなかったと思うんだけど」

そう前置いた主任が息を大きく吸った。

「好きだ」

それは唐突な、だけど疑うことすら烏滸がましいような真っ直ぐな言葉。思いがけない台詞に、私は大きく目を見開いて受け止めた。

「器用そうに見えて不器用で、何事にも一生懸命な小澤が好きだ。何でもこなすけど、その裏で沢山努力する小澤が好きだ」
「……っ」
「ひとつひとつ挙げたらキリがないくらい、俺はおまえのことが好きだよ」

耳や首まで真っ赤に染めて、しかし私の頬に触れる手は宝物に触れるように優しい。
私が前まで不安に感じていたことすべてを吹き飛ばすかのような。私の選択に間違いはなかったんだって、改めて信じさせてくれる。

「私も……どれだけ言ったって足りない、です。いい歳して重いかも」
「それこそお互い様だ。好きになったらとことんだって、小澤もよく知ってるだろ」