突然ですが、契約結婚しました。

それはきっと、主任も同じ気持ちだと思うの。

「まぁ、こんなの俺が言うようなことでもないけどさ」

こほんとわざとらしく咳払いをしてタイガさんが私に向き直る。

「あいつ、昨日俺に報告してきた時、本当に幸せそうだったんだ。10年以上トモダチやってきたけど、初めて見る顔で笑ってて。あぁよかったなぁって俺も嬉しくなった」
「……っ」
「傍にいてやってね、タマちゃん」

少し照れくさそうにするタイガさんも初めて見るような表情で笑っていて、改めて2人の絆の深さを知る。
そんなタイガさんに、こんなふうに言われることの重さ。覚悟。今の私になら、頷ける。

「傍にいます。主任が離れろって言ったって、簡単には離してやらないんだから」

鼻息を荒くして言うと、タイガさんは満足そうに笑って頷いた。


タイガさんにご馳走になった分と、自分で注文したカクテルを1杯ずつ飲んで私は帰路についた。
家に帰る頃には時計の短い針は9を過ぎていたけれど、道路から見上げた部屋に明かりは灯っていなかった。

帰宅するなりお風呂を沸かす。シャワーでも事足りるようになるまでまだもう少しかかりそうだなぁなんて思いつつ、今のうちにと湯船に浸かった。
十分すぎるくらいにお風呂で温もり、念入りにスキンケアをして髪を乾かし終えたところで背後の玄関で鍵が開けられる音がした。主任だ。

「おかえりなさい」

洗面所を飛び出して出迎えると、寒さに鼻先を赤くした主任の表情が綻んだ。その眼差しは驚くほどに柔らかく、その甘さにまだ慣れない。

「ただいま。遅くなって悪い」
「私もゆっくりしてたので。お風呂、先に入っちゃってくださいね」

靴を脱ぐ主任に声をかけると、主任は目を瞬いた。

「後でいいよ。散々待たせた挙句、また時間もらうことになるだろ」
「外冷えたでしょう。私は大丈夫ですから、ゆっくり浸かってきてください」

冬空の寒さもお湯に浸かる幸福感も身に沁みて知っている。話し合いはもちろん大事だけど、デイリーをこなしてこそだ。
私が強く言うと主任はそれ以上食い下がることなく、ありがとうとだけ呟いて彼はお風呂に向かった。


ドライヤーも済ませた主任がリビングに戻ってきたのは23時も回った頃。部屋着姿で顔を火照らせた主任を、今度はソファーで迎える。

「しっかり温まれました?」
「あぁ、おかげさまで。ありがとう」
「よかったです」

空いているソファーの隣に主任が腰掛ける。テレビでは深夜帯のニュースが流れていて、最近世間を賑わせている政治の裏金問題なんかを取り上げていた。