契約婚を経て、ようやく想いを通わせた私達。
ガラにもなく、甘い生活が待ってるんだ! なーんて思っていたんだけど……。

「小澤、今日は帰り何時頃になる?」

朝。キッチンで朝食の支度をしている主任から声がかかった。
ちょうど化粧が終わったところだった私は、洗面所からリビングに戻りつつ答える。

「うーん、急ぎの見積もり作んなきゃなんなくて……21時は回るかなって感じです。主任は?」
「俺は今日早く帰れるが……明日、研修で朝早いんだ」
「……そう、ですか」
「……すまん」
「いえ……こちらこそ」

お互いの気持ちをぶつけ合ったあの日から早4日。私達の関係は、悲しいことにあまり進展していない。
進展というのが何を指すのか微妙なところではあるけれど……そのものずばり、お互いの気持ちを知っただけで後は何も変わっていないのだ。

これまでのこと、これからのこと。話したいことは沢山ある。それは共通認識のはずだった。
だけど、日曜日は帰宅すると夜も更けていて、翌日に朝一番の営業ミーティングがあったから、お互い名残惜しさを感じながらもそれぞれの部屋で休むことになった。
月曜日、仕事が終わったらゆっくり話をしよう。そう思っていたのに、緊急の納品だのトラブルだのでお互い仕事に追われ、時間を確保することが出来ないまま今に至る。

「明日はどうですか? 私、明日は19時には上がれそうなんですが」

聞くと、トースターからパンを取り出していた主任が振り向いて、申し訳なさそうに眉を下げた。

「悪い、明日は会食の予定があって」
「ありゃ」

しょうがない。だって私達は営業職なんだもの。定時で帰れないことが通常運転。
でも……でもさぁ? こんなときまで通常運転でいられてしまう自分達がもどかしい。
こんなの、子どもっぽすぎて主任には絶対に言わないけど。
あーあ、じゃあゆっくり話せるのは土曜日以降かぁ……。

「これ、運んじゃいますね」

キッチンに回り、主任が焼いてくれた目玉焼きとソーセージが乗ったお皿をワークトップから手に取る。
そのままテーブルに戻ろうとしたところで、後ろから裾を引かれた。

「主任?」

振り返ると、真剣な面持ちをした主任と目が合った。瞬間、心臓がばくんと一つ大きく跳ねる。

「土曜日の予定は」
「土曜日ですか? 特には……。強いて言うなら、作り置き用の材料を買いに、大きいスーパーに行きたいくらいですかね」
「それは一緒に行こう」
「いいんですか。やったぁ」

って、したかったのはそういう話? 小首を傾げて主任を見上げると、彼は小さく息を吐いてから私の肩に額を乗せた。