突然ですが、契約結婚しました。

会社では、部下にも上司にも常に毅然とした態度を崩さなくて、そのぶん仕事も出来るんだけどとっつきにくくて。
こんなふうに気の張ってない姿なんて、見たことなかった。

えぇ、どうしよう。オフの主任、ちょっと面白い。

「私も主任の関西弁、聞いてみたいです〜」
「……なんだ、小澤まで」
「だってレアじゃないですか。関西弁を話す主任なんて、SSRですよ」
「えすえすあーる……?」

主任はゲームやんないクチか。ここはイメージ通りだなぁ。
まぁ私も流行りのをちょこっとやったことあるくらいのものだけど。

様子を伺ってみるけど、うーん。牙城は簡単に崩れてはくれなさそう。
ちぇっ。堅物・柳瀬真緒の激レア姿は断念するしかないのかぁ。

「ん、水飲んだぞ。これでいいだろ」

空になったグラスを掲げて、主任が自慢げに言う。これでいいだろって……子どもか!

「はいはい。……タマちゃんは? どうする?」
「へっ?」

まさか私に話が回ってくると思わず、変な声が出た。この“どうする”には、恐らく2つの意味が込められている。

「えー……っと」

どうしよう。主任が現れた時は、落ち着かないしもう帰っちゃおっかなぁなんて思ったんだけど……。

「好きなの頼めよ。奢ってやる」

主任の口から、そんなセリフを聞く日が来るなんて。今日ここで出会ってなきゃ、一生聞くことのなかった言葉だろう。
ちょっとちょっと。そんなふうに言われたんじゃ、帰るに帰れないじゃん。

「じゃあタイガさん、このお店で1番高いお酒くださーい」
「オイ」
「はーい、ちょっと待っててね」
「大河まで乗るな!」

じとっと睨まれるけど、今日はぜんぜん怖くない。むしろケラケラ笑ってしまうけど、彼もまたそれを見て口元を緩めている。
もしかしたら今からの時間は、すごく楽しいものになるのかもしれない。なんてふと思う。

あぁ、主任と並んでお酒を飲む日が来るなんて。今日は予想外なことばっかりだなぁ。



「だからな、小澤はいつも惜しいんやって。仕事は丁寧やけど、慎重すぎんねん」
「そんなこと言ったって怖いじゃないですか! どこまで押していいかわかんないしっ」
「押せるところまで押したらいいやんか。もちろん線引きは重要やけど」
「その線引きが難しいんですってば!」

主任と飲み始めて早1時間。お酒が進み、驚くほどあっさりと、牙城は崩れていた。