突然ですが、契約結婚しました。

このまま溶け出してしまいそうだなぁなんてことを思いながら人々を観察した。

少し顔を赤らめて寄り添って歩く同年代くらいのカップル。ご主人が歩くのとは反対側の手で杖をつく女性。少し背伸びをした格好で手を繋いで歩く大学生くらいの男女。
意識して男女の組み合わせに視線を留めていたからかもしれないけれど、こうして見ると、世の中にカップルって多いんだなー。

視界の端に入っていたコンビニから見知った影が出てきて、私は視線をそちらに投げた。いつもと変わらないペースで歩いてくる主任の両の手には、ペットボトルが1本ずつ握られている。

「冷たい水か(ぬく)いお茶、どっちがいい」

目の前にずいっと差し出されて、面食らいつつも温かいお茶を受け取る。どうやら酔い醒ましの飲み物を買いに行ってくれていたらしい。

「ありがとうございます」
「うん」

私の隣にどすんと腰掛け、彼もまたペットボトルのキャップを開けた。冬空の下だと言うのに周りにある他のベンチはことごとく埋まっていて、ここが空いていたのは奇跡のようにも思えた。
500mlの寸胴なペットボトルを両手で包んで、ぼんやりと空を見上げる。目を凝らしてもやっぱり星は見つけられない。

「東京の空は狭いよなぁ」

ふと隣からそんな声が聞こえて、私は目線をゆっくり戻す。

「どうしたんですか急に」
「いやぁ、久々にこうやって空見上げた気すんねんけどさ。自分が思う空と目の前の景色があまりにも違うから、ちょっとおもんない」
「不服ですか?」
「うん。美味い飯を食べた後で気分がいいから、俺は今、もっと綺麗な空が見たい」

何だそれ。どこのジャイ●ンだ。酔っ払い過ぎじゃないですか、主任。
その酔っ払った主任を可愛いと思ってしまっている私もまた、アルコールが回ってきたのかもしれない。

「理想は大阪の空ですか?」
「いや、大阪もこっちよりは多少開けてるけど綺麗じゃない」
「じゃあ」
「沖縄がええな」

沖縄。予想外にロマンチックな地名が出てきて、私は舌先で転がすように同じ四文字を辿った。

「沖縄本島最北端の辺戸岬の近くに、茅打バンタっていうところがあってな。星が綺麗って言うから、旅行した時にアホみたいにレンタカー走らせてわざわざ見に行ってんけど」
「綺麗でした?」
「それはもう。アスファルトの上に寝転がって、2時間くらい見てたかな。瞬きしたらこぼれて落ちてくるんちゃうかってくらい満点の星空で」