「だからね、私は思うのよ。そもそも主人公、婚約者のことちっとも好きじゃなかったんじゃないのって」
「あー、確かにそれは思ったかも。少なからず損得勘定はあったよね」
手土産で持ってきたプリンの容器を片付けることも、すっかり冷めてしまった紅茶の残りを飲み切ることも淹れ直すこともせずに私達が白熱していたのは、30分ほど前に見終えたドラマの最終回に対してだった。ドラマは動画配信サービスで見られるもので、最終回は今日一緒に見ようと示し合わせていたのだ。
物語はよくある4角関係で、それぞれにパートナーがいる元恋人同士が再会して再び惹かれ合うというストーリーだった。
「結局元恋人に落ち着くのはわかってたけどさ。当て馬くんがあまりに当て馬すぎたっていうか」
「ただただいい人だったもんね。引き際もタイミングとしては完璧だった」
「そうなんだよねぇ。脚本家はデキるイケメンに何か恨みでもあるのかしら」
脚本家の個人的な恨み辛みをあれだけ込められては、1人の登場人物としては堪ったもんじゃない。湯浅の言葉に乾いた笑みを浮かべつつ、いつの間にかスクリーンセーバーに切り替わっていたテレビの画面に視線を投げた。
人柄も完璧で社会的地位もある婚約者を棄て、周りの制止を振り切ってまで、遠くに飛び立とうとする元恋人を追うことを決めた主人公。心の中で深く根を下ろしたたった一つの好きという感情だけを頼りに、彼女は全てを投げ売ったのだ。
空港で、まもなく飛び立つ恋人の背中に抱きついて、そのたった一つを掴まえた。
「湯浅的に何点だった? この作品」
「うーん、65点。前半の学生時代はすごくよかった」
「だから私に薦めてくれたんだもんね」
「そう。後半が惜しかったのよ」
「手厳しい」
腕を胸元で組んで妙に険しい表情を浮かべる湯浅は、さながら映画評論家だ。重鎮と呼ぶには、オーラも威厳もなかったけれど。
「はぁ、語った。あっという間に時間過ぎちゃった」
マフラーを首に巻き付けながら、キッチンに立つ湯浅と言葉を交わす。
銀縁とカーテンに切り取られた空は薄暗くなっていて、時計の針は主任と約束した時刻に近付いている。
「いいなぁ、今から柳瀬主任とオシャレディナー」
「わかんないよ? 私が勝手に言ってただけで、赤ちょうちんの居酒屋っていう可能性もある」
「と言いつつ、いつもより綺麗めな身なりしてるあたりが小澤の可愛いところだよねぇ」
にやにやと口元を緩め、頭のてんぺんから爪先まで、視線を滑らせる湯浅。私はかっと熱が顔に集まったのを自覚して、鋭く湯浅を睨みつける。
「あー、確かにそれは思ったかも。少なからず損得勘定はあったよね」
手土産で持ってきたプリンの容器を片付けることも、すっかり冷めてしまった紅茶の残りを飲み切ることも淹れ直すこともせずに私達が白熱していたのは、30分ほど前に見終えたドラマの最終回に対してだった。ドラマは動画配信サービスで見られるもので、最終回は今日一緒に見ようと示し合わせていたのだ。
物語はよくある4角関係で、それぞれにパートナーがいる元恋人同士が再会して再び惹かれ合うというストーリーだった。
「結局元恋人に落ち着くのはわかってたけどさ。当て馬くんがあまりに当て馬すぎたっていうか」
「ただただいい人だったもんね。引き際もタイミングとしては完璧だった」
「そうなんだよねぇ。脚本家はデキるイケメンに何か恨みでもあるのかしら」
脚本家の個人的な恨み辛みをあれだけ込められては、1人の登場人物としては堪ったもんじゃない。湯浅の言葉に乾いた笑みを浮かべつつ、いつの間にかスクリーンセーバーに切り替わっていたテレビの画面に視線を投げた。
人柄も完璧で社会的地位もある婚約者を棄て、周りの制止を振り切ってまで、遠くに飛び立とうとする元恋人を追うことを決めた主人公。心の中で深く根を下ろしたたった一つの好きという感情だけを頼りに、彼女は全てを投げ売ったのだ。
空港で、まもなく飛び立つ恋人の背中に抱きついて、そのたった一つを掴まえた。
「湯浅的に何点だった? この作品」
「うーん、65点。前半の学生時代はすごくよかった」
「だから私に薦めてくれたんだもんね」
「そう。後半が惜しかったのよ」
「手厳しい」
腕を胸元で組んで妙に険しい表情を浮かべる湯浅は、さながら映画評論家だ。重鎮と呼ぶには、オーラも威厳もなかったけれど。
「はぁ、語った。あっという間に時間過ぎちゃった」
マフラーを首に巻き付けながら、キッチンに立つ湯浅と言葉を交わす。
銀縁とカーテンに切り取られた空は薄暗くなっていて、時計の針は主任と約束した時刻に近付いている。
「いいなぁ、今から柳瀬主任とオシャレディナー」
「わかんないよ? 私が勝手に言ってただけで、赤ちょうちんの居酒屋っていう可能性もある」
「と言いつつ、いつもより綺麗めな身なりしてるあたりが小澤の可愛いところだよねぇ」
にやにやと口元を緩め、頭のてんぺんから爪先まで、視線を滑らせる湯浅。私はかっと熱が顔に集まったのを自覚して、鋭く湯浅を睨みつける。



