「よろしくお伝えくださいね」
「わかった」
静かなリビングに、ケトルがお湯を沸かす音と主任がキーボードを叩く音が心地よく響く。
ご飯は軽く済ませてきたので、お茶を飲んで一息ついたらお風呂に入ろう。明日は金曜日。週末まであと少しだ。
「あ、そうだ。今度の日曜日、空いてないか?」
「お昼は湯浅と約束してて。夜だったら空いてますけど」
「夜、外で飯食わないか」
言葉少ななお誘いだけど、この前のお礼だということは容易にわかる。仕事に追われながらも主任がずっと気にしていてくれたことは知っていた。A5ランクのお肉なんて冗談で、別にお礼なんて必要ないんだけど……。
「俺の気が済まないから、変に遠慮しないでくれよ」
私の考えを読んだのか、口を開くよりも先に釘を刺された。そう言われてしまうと返す言葉もない。
「じゃあ、お言葉に甘えさせていただきます」
「あぁ。時間や場所はまた連絡する」
「わかりました。仕事残ってるとかだったら、気にせず改めてくださいね?」
「それで改めてたら、俺達一生どこにも行けないだろ」
「あはは、それもそうですね」
主任と、休日に外でディナー。不思議な感覚ではあるけれど、楽しみ、かもしれない。
日曜日。妊婦である湯浅をあちこち連れ回すのも忍びないので、約束は村田家を訪ねるかたちになった。
乗り換えの駅構内で買った手土産を片手に、マンションのインターホンを鳴らした。
「いらっしゃい。わざわざ来てくれてありがとね」
「とんでもない。体調、変わりない?」
「おかげさまで。今のところ、まめが大人しくいてくれてるから助かってる」
まめというのが村田ベイビーの胎児ネームらしい。まめちゃん、その響きが既に可愛い。
湯浅に通されてリビングに足を踏み入れる。旦那さんである村田くんの姿はなく、ベランダから心地よい日差しが差し込んでいた。
「村田くん、いないの?」
「うん。俺がいないほうが気楽でしょって言って、朝から出掛けた」
「えぇ……。ほんと出来た人だよね、村田くん」
「小澤に愚痴られてるのを聞きたくないだけかもだけどね」
イタズラに笑う湯浅に、私も肩を竦める。傍から見てると愚痴なんてあるの? と言いたくなるような2人だけど、夫婦なんだもん、そりゃ愚痴の一つや二つあるよね。
私達は、と顧みそうになるのを寸でで止めた。顧みたところで、同じ土俵にすらないんだから。
「わかった」
静かなリビングに、ケトルがお湯を沸かす音と主任がキーボードを叩く音が心地よく響く。
ご飯は軽く済ませてきたので、お茶を飲んで一息ついたらお風呂に入ろう。明日は金曜日。週末まであと少しだ。
「あ、そうだ。今度の日曜日、空いてないか?」
「お昼は湯浅と約束してて。夜だったら空いてますけど」
「夜、外で飯食わないか」
言葉少ななお誘いだけど、この前のお礼だということは容易にわかる。仕事に追われながらも主任がずっと気にしていてくれたことは知っていた。A5ランクのお肉なんて冗談で、別にお礼なんて必要ないんだけど……。
「俺の気が済まないから、変に遠慮しないでくれよ」
私の考えを読んだのか、口を開くよりも先に釘を刺された。そう言われてしまうと返す言葉もない。
「じゃあ、お言葉に甘えさせていただきます」
「あぁ。時間や場所はまた連絡する」
「わかりました。仕事残ってるとかだったら、気にせず改めてくださいね?」
「それで改めてたら、俺達一生どこにも行けないだろ」
「あはは、それもそうですね」
主任と、休日に外でディナー。不思議な感覚ではあるけれど、楽しみ、かもしれない。
日曜日。妊婦である湯浅をあちこち連れ回すのも忍びないので、約束は村田家を訪ねるかたちになった。
乗り換えの駅構内で買った手土産を片手に、マンションのインターホンを鳴らした。
「いらっしゃい。わざわざ来てくれてありがとね」
「とんでもない。体調、変わりない?」
「おかげさまで。今のところ、まめが大人しくいてくれてるから助かってる」
まめというのが村田ベイビーの胎児ネームらしい。まめちゃん、その響きが既に可愛い。
湯浅に通されてリビングに足を踏み入れる。旦那さんである村田くんの姿はなく、ベランダから心地よい日差しが差し込んでいた。
「村田くん、いないの?」
「うん。俺がいないほうが気楽でしょって言って、朝から出掛けた」
「えぇ……。ほんと出来た人だよね、村田くん」
「小澤に愚痴られてるのを聞きたくないだけかもだけどね」
イタズラに笑う湯浅に、私も肩を竦める。傍から見てると愚痴なんてあるの? と言いたくなるような2人だけど、夫婦なんだもん、そりゃ愚痴の一つや二つあるよね。
私達は、と顧みそうになるのを寸でで止めた。顧みたところで、同じ土俵にすらないんだから。



