一頻り笑い転げた後、私は襟を正して主任に向き直る。緩んでいた空気がぴんと張り詰めたのを、主任も肌で感じていた。
うまく言葉に出来るかわからない。だけど、言葉にしなければ延々とこの迷路を主任にも彷徨わせることになる。
「健太くんと話をして、消化出来ないでいた彼への罪悪感みたいなものはなくなったと思います。自分の中の一つの過去に、折り合いをつけられたってことなんだと」
主任は夜の海のような眼差しを向けて私の話に耳を傾けていた。自分が両手に抱える語彙を一つひとつ拾い集め、自分の気持ちと擦り合わせていく。途方もない、気の遠くなるような作業だ。
「だけど、全てを清算できわけじゃなくて。健太くんとのこと以外にも自分の中で散らかったままの要因はたくさんあって、今までの私はそれを片付けることから逃げて……ううん、見ることすらしないようにしていて」
「うん」
「主任との生活は心地良いけど、それがルームシェアの延長なのか、家族愛になっているのか、はたまた別の感情なのか。あれからたくさん考えたけれど、答えは出なくて。自分でもまだ、自分の気持ちを測りかねています」
主任はいくらでも待つと言ってくれた。だけどそれは、経過を報告しないでいいということとイコールではない。いつ答えが出るのか明言できないのであれば、尚のこと。
言葉の羅列を受け止めて、主任は細く息を吐き出した。仕事において、アドバイスまたは叱咤激励をくれる時の前置きだということはとうの前から知っている。じゃあ、プライベートではどうなんだろう?
「向き合う義理も理由もねぇのに、バカ真面目に頭悩ませる辺りがさすがというかなんというか」
「……少なくとも褒めてないですよね」
「褒めてるよ」
主任はそう言うけれど、理由も義理もないわけないじゃない。私達はこの家で一緒に過ごすうちに、他人ではなくなってしまった。
少なからずあなたは、私にとって唯一無二になってしまったんだから。
「もし私が、主任と同じ気持ちを返せなかったら?」
「今まで通り、利害関係が成り立つ相手としていればいい」
「私の中で、ずっと答えが出なかったら?」
「おまえが答えを出そうと思うなら、その間はいくらでも待つ。そう言っただろ」
不安を俎上に載せては、主任がそれを打ち消してくれる。それなのに、次から次へとぽこぽこ湧き上がってくるのは、私が臆病で弱いから。その弱さに、この人を巻き込む覚悟なんかない。
私が視線を落とすと、テーブルの向こうから手が伸びてきた。
うまく言葉に出来るかわからない。だけど、言葉にしなければ延々とこの迷路を主任にも彷徨わせることになる。
「健太くんと話をして、消化出来ないでいた彼への罪悪感みたいなものはなくなったと思います。自分の中の一つの過去に、折り合いをつけられたってことなんだと」
主任は夜の海のような眼差しを向けて私の話に耳を傾けていた。自分が両手に抱える語彙を一つひとつ拾い集め、自分の気持ちと擦り合わせていく。途方もない、気の遠くなるような作業だ。
「だけど、全てを清算できわけじゃなくて。健太くんとのこと以外にも自分の中で散らかったままの要因はたくさんあって、今までの私はそれを片付けることから逃げて……ううん、見ることすらしないようにしていて」
「うん」
「主任との生活は心地良いけど、それがルームシェアの延長なのか、家族愛になっているのか、はたまた別の感情なのか。あれからたくさん考えたけれど、答えは出なくて。自分でもまだ、自分の気持ちを測りかねています」
主任はいくらでも待つと言ってくれた。だけどそれは、経過を報告しないでいいということとイコールではない。いつ答えが出るのか明言できないのであれば、尚のこと。
言葉の羅列を受け止めて、主任は細く息を吐き出した。仕事において、アドバイスまたは叱咤激励をくれる時の前置きだということはとうの前から知っている。じゃあ、プライベートではどうなんだろう?
「向き合う義理も理由もねぇのに、バカ真面目に頭悩ませる辺りがさすがというかなんというか」
「……少なくとも褒めてないですよね」
「褒めてるよ」
主任はそう言うけれど、理由も義理もないわけないじゃない。私達はこの家で一緒に過ごすうちに、他人ではなくなってしまった。
少なからずあなたは、私にとって唯一無二になってしまったんだから。
「もし私が、主任と同じ気持ちを返せなかったら?」
「今まで通り、利害関係が成り立つ相手としていればいい」
「私の中で、ずっと答えが出なかったら?」
「おまえが答えを出そうと思うなら、その間はいくらでも待つ。そう言っただろ」
不安を俎上に載せては、主任がそれを打ち消してくれる。それなのに、次から次へとぽこぽこ湧き上がってくるのは、私が臆病で弱いから。その弱さに、この人を巻き込む覚悟なんかない。
私が視線を落とすと、テーブルの向こうから手が伸びてきた。



