突然ですが、契約結婚しました。

下げた頭のてっぺんで、健太くんの困惑を感じ取る。ずっと頭を垂れたままでは何事かと思われてしまうので、そこそこに顔を上げた。
彼は戸惑いの色を滲ませながらも真っ直ぐに私の目を見据えていた。だから、私も目を逸らさなかった。

「いつか健太くんに会えたら、真っ先に謝らなくちゃって思ってた。それなのに、会うことから逃げて……再会してからも逃げて、本当にごめんなさい」

あのバーで、私は真っ先に尻尾を巻いた。彼の顔をまとも見ることすらせず横を通り抜けた自分を恥じた。私はまだこんなにも卑怯なままなのか。
それでも、こんなどうしようもないやつでも、少しくらいはちゃんとしてみたい。

「健太くんは、私にはもったいないくらい大切にしてくれた。それなのに私は、十分な説明もしないままで健太くんから離れて」
「…………」
「謝っても謝りきれないと思うけど、でも……」

謝罪の言葉を続けようとした私に、「ストップ」と鋭い静止が入る。はっとして言葉を飲み込んだ私に、彼が頭を振った。

「ごめんの言葉は、あの時何度も聞いたよ」

けして責める口調ではなく、彼の眼差しは過去を振り返っている。彼の中でも、あの時の記憶は鮮明なんだろうか。

「俺も、ずっと後悔してたんだ」
「え……?」

後悔? どうして?
よりによって彼の口からそんな言葉が出てくるなんて思ってもみなくて、私は呆けた顔になる。
客席やレジを発生源とする喧騒は、何の意味もなくどこか遠くで聞こえるようになっていた。

「環ちゃんを大事にしていたつもりで、本当は自己満足で終わっていたんじゃないか。俺が至らなかったせいでいつの間にか環ちゃんを苦しめていたんじゃないかって」
「そ、そんなこと……!」
「何より、環ちゃんが何かに苦しんでいることに気が付いていたのに、怖くて向き合う勇気を持てなかった」

あぁ──なんてこの人は。
一方的に別れを告げて、彼がそこに自分の咎を探ろうとしないはずがなかったのだ。
違う。違うよ。健太くんは何も悪くない。健太くんが向き合ってくれていたって、私が向き合えなかった。
悪いのは、全部私なんだよ。

「私……健太くんに苦しめられたなんて、思ったことないよ」
「……うん」
「ほんとだよ。健太くんに悪いところなんて、これっぽっちもなかったよ。全部私が、」

誤解を解こうと躍起になって、舌は油を差したように軽快に回った。瞬間、健太くんの表情の中に、僅かな哀愁が滲む。