そう言い残し、彼は颯爽と注文の列へと歩いていく。
ス……スマートだ……!
昔ももちろんスマートだった。女扱いと言うよりも、人と歩くことがとても上手な人だった。
だけど、今はもっとそれに拍車がかかっている。全ての行動に嫌味がないのが逆に怖い……などと、元カノの分際で思ってみる。
「…………」
幸せ、だったよなぁ……。
彼と過ごしたあの日々に思いを馳せて、改めて思う。あの頃の私は、とても大切にされていた。
とても幸せだった。あの時、私から彼の手を離していなければ、私達はまだ一緒にいたんだろうか。
「お待たせ」
「ありがとう」
マグカップが2つ乗ったトレイを手に彼が戻ってくる。カップの中身は同じで、彼もまたコーヒーが好きだったことを思い出す。
「…………」
「…………」
向かい合わせに座った私達の間には再び、他とは違う時間が流れる。逃げるでもなく窓の外に視線を向けると、木枯らしに吹かれた通行人が険しい顔をして歩いていた。
「不思議」
「ん?」
「こんな風に、健太くんとまた一緒にカフェでお茶する日が来るなんて……夢にも思わなかった」
独り言のようにこぼした声を、健太くんは穏やかな笑みで拾い上げる。猫舌ですぐに飲めないコーヒーを、息を吹きかけて冷ましながら。
「ほんとだよね。こんな偶然があるんだって、ぶっちゃけ俺、まだ信じきれてないもん」
取引先で意気投合した他社の営業の奥さん。そんな偶然、街で芸能人に遭遇しましたっていうほうが現実味がある。
それでもこれは確かに現実で、私達には時間が与えられたのだ。私にとっては、過去と向き合う時間を。
「湯浅と村田くんの結婚式で会うことはあるのかもって思ってはいたけど、結局、式挙げなかったもんね」
「ウェディングフォトは見せてもらったよ。幸せそうだった」
「ほんとにお似合いな2人だよね」
まだ疑似恋愛することに疑いを持っていなかった頃。沖縄で撮ったというウェディングフォトを湯浅に見せてもらった。
白い砂浜に青い海がよく映えて、2人は純白に包まれて幸せそうに笑っていた。素敵だと思った。心の底から祝福の意が湧いて、そして改めて痛感した。──私には縁がない光景だ。
何年にも渡って培った、拗らせた恋愛観。そこに彼を巻き込んだ。いつか彼が他の誰かと幸せになったときにまた会いたい──そんなの、ただ自分が許されたいだけの甘えだ。
「ごめんなさい」
ようやく絞り出した声は、自分が思っていたよりも遥かにか細く弱々しかった。自分の弱さが体現されているようだった。
ス……スマートだ……!
昔ももちろんスマートだった。女扱いと言うよりも、人と歩くことがとても上手な人だった。
だけど、今はもっとそれに拍車がかかっている。全ての行動に嫌味がないのが逆に怖い……などと、元カノの分際で思ってみる。
「…………」
幸せ、だったよなぁ……。
彼と過ごしたあの日々に思いを馳せて、改めて思う。あの頃の私は、とても大切にされていた。
とても幸せだった。あの時、私から彼の手を離していなければ、私達はまだ一緒にいたんだろうか。
「お待たせ」
「ありがとう」
マグカップが2つ乗ったトレイを手に彼が戻ってくる。カップの中身は同じで、彼もまたコーヒーが好きだったことを思い出す。
「…………」
「…………」
向かい合わせに座った私達の間には再び、他とは違う時間が流れる。逃げるでもなく窓の外に視線を向けると、木枯らしに吹かれた通行人が険しい顔をして歩いていた。
「不思議」
「ん?」
「こんな風に、健太くんとまた一緒にカフェでお茶する日が来るなんて……夢にも思わなかった」
独り言のようにこぼした声を、健太くんは穏やかな笑みで拾い上げる。猫舌ですぐに飲めないコーヒーを、息を吹きかけて冷ましながら。
「ほんとだよね。こんな偶然があるんだって、ぶっちゃけ俺、まだ信じきれてないもん」
取引先で意気投合した他社の営業の奥さん。そんな偶然、街で芸能人に遭遇しましたっていうほうが現実味がある。
それでもこれは確かに現実で、私達には時間が与えられたのだ。私にとっては、過去と向き合う時間を。
「湯浅と村田くんの結婚式で会うことはあるのかもって思ってはいたけど、結局、式挙げなかったもんね」
「ウェディングフォトは見せてもらったよ。幸せそうだった」
「ほんとにお似合いな2人だよね」
まだ疑似恋愛することに疑いを持っていなかった頃。沖縄で撮ったというウェディングフォトを湯浅に見せてもらった。
白い砂浜に青い海がよく映えて、2人は純白に包まれて幸せそうに笑っていた。素敵だと思った。心の底から祝福の意が湧いて、そして改めて痛感した。──私には縁がない光景だ。
何年にも渡って培った、拗らせた恋愛観。そこに彼を巻き込んだ。いつか彼が他の誰かと幸せになったときにまた会いたい──そんなの、ただ自分が許されたいだけの甘えだ。
「ごめんなさい」
ようやく絞り出した声は、自分が思っていたよりも遥かにか細く弱々しかった。自分の弱さが体現されているようだった。



