彼の目に今の私は、どんなふうに映っているんだろう。
講演の後、関係者達が一同に挨拶を交わす中、ミッションは恙無く完了した。
人もまばらになった会場の入口の隅で、私用スマホでメッセージアプリを起動する。
「無事に終わりました……っと」
送り先はもちろん主任だ。トーク画面を眺めてみても既読はすぐにつかなかったので、きっと休んでいるのだろう。
スマホの明かりを落としてポケットに滑らせたタイミングで、会場から彼が出てきたのが見えた。
「すみません、お待たせしました」
「いえ。ご挨拶は出来ましたか」
「はい。小澤さんのおかげで漏れなく出来たかと」
顔見知りの先生との挨拶を終えて、彼もまた営業職としての任務を終えたようだ。営業マンとしての表情が少しだけ緩んだのがわかる。
「よかったです。私も、遠山さんのおかげでご挨拶出来ました」
「とんでもない。よかったです」
ざわざわとしたら喧騒の中で、私達は向かい合って次の言葉を探す。
き……気まずい……! 誰か教えて、ここから私はどうするべき?
彼は、私と同じように電車で来たと言っていた。駅までは徒歩10分くらいあるけれど、ここで別れるにはあまりにも不自然すぎる。それに……。
「あ、あの……っ」
「環ちゃん」
頭上で懐かしい声が私を呼んで、ぱっと弾かれたように顔を上げると彼が少しだけ困ったように眉を下げて私を見ていた。──営業マンの顔を捨てた、あの頃と同じ表情で。
ぐっと言葉に詰まった私の返答を待たずに、彼が私を追い抜く。
「よかったら、なんだけど。少しお茶していかない?」
時刻は17時に差し掛かる頃。夕飯のお誘いでもいいところを、彼はどこまでも気遣いの人だ。
気まずさはあれど、断る理由がない。彼の呼びかけを跳ね除けるほど、まだ嫌な女ではないと思いたい。
私が小さく顎を引くと、彼は安堵したように表情を和らげた。
会場の最寄り駅に全国チェーンのカフェがあったことは私と彼の共通認識だった。オフィス街に位置していることもあり、店内にはサラリーマンらしき人がちらほらいたけれど、空席はすぐに目についた。
「俺、注文してくるよ。何がいい?」
「え……いいよ、私も行く」
「今日来てくれたお礼だから、甘えてよ。あんな小難しい講演、1人で聞いてたら寝てた」
彼があまりに真面目な顔で言うので、思わず吹き出してしまう。絶対1人でも真面目に聞いてたでしょ、と内心でツッコミを入れる。
「うん、じゃあお言葉に甘えて。コーヒーでお願いします」
「了解。ゆっくりしててね」
講演の後、関係者達が一同に挨拶を交わす中、ミッションは恙無く完了した。
人もまばらになった会場の入口の隅で、私用スマホでメッセージアプリを起動する。
「無事に終わりました……っと」
送り先はもちろん主任だ。トーク画面を眺めてみても既読はすぐにつかなかったので、きっと休んでいるのだろう。
スマホの明かりを落としてポケットに滑らせたタイミングで、会場から彼が出てきたのが見えた。
「すみません、お待たせしました」
「いえ。ご挨拶は出来ましたか」
「はい。小澤さんのおかげで漏れなく出来たかと」
顔見知りの先生との挨拶を終えて、彼もまた営業職としての任務を終えたようだ。営業マンとしての表情が少しだけ緩んだのがわかる。
「よかったです。私も、遠山さんのおかげでご挨拶出来ました」
「とんでもない。よかったです」
ざわざわとしたら喧騒の中で、私達は向かい合って次の言葉を探す。
き……気まずい……! 誰か教えて、ここから私はどうするべき?
彼は、私と同じように電車で来たと言っていた。駅までは徒歩10分くらいあるけれど、ここで別れるにはあまりにも不自然すぎる。それに……。
「あ、あの……っ」
「環ちゃん」
頭上で懐かしい声が私を呼んで、ぱっと弾かれたように顔を上げると彼が少しだけ困ったように眉を下げて私を見ていた。──営業マンの顔を捨てた、あの頃と同じ表情で。
ぐっと言葉に詰まった私の返答を待たずに、彼が私を追い抜く。
「よかったら、なんだけど。少しお茶していかない?」
時刻は17時に差し掛かる頃。夕飯のお誘いでもいいところを、彼はどこまでも気遣いの人だ。
気まずさはあれど、断る理由がない。彼の呼びかけを跳ね除けるほど、まだ嫌な女ではないと思いたい。
私が小さく顎を引くと、彼は安堵したように表情を和らげた。
会場の最寄り駅に全国チェーンのカフェがあったことは私と彼の共通認識だった。オフィス街に位置していることもあり、店内にはサラリーマンらしき人がちらほらいたけれど、空席はすぐに目についた。
「俺、注文してくるよ。何がいい?」
「え……いいよ、私も行く」
「今日来てくれたお礼だから、甘えてよ。あんな小難しい講演、1人で聞いてたら寝てた」
彼があまりに真面目な顔で言うので、思わず吹き出してしまう。絶対1人でも真面目に聞いてたでしょ、と内心でツッコミを入れる。
「うん、じゃあお言葉に甘えて。コーヒーでお願いします」
「了解。ゆっくりしててね」



