だけど、ここはもう誰にも教えない。
この2時間でそう思ってしまうくらい、ここは心地よかった。
グラスはもう底が見えている。次、何頼もっかなぁ。お酒は一旦休憩してもいいなぁ。そんなふうに思いながらメニューを眺めていた時、背後の扉が開く音がした。
「お。お疲れ」
頭上でタイガさんの声がした。気安い口調に、従業員の人が入ってきたのかなーなんて思う。
メニューをぼうっと眺めているうちに、カウンターの2つ左隣の席に腰を下ろす影が見えた。どさっと、何かを椅子に下ろす音も。
「なんか適当に酒くれ。強いやつ」
「そのオーダーの仕方、相当参ってるな」
「……うるせ」
タイガさんのお友達かな。いい声してるな。なんかちょっと気怠げな、掠れた声。俳優の佐●健に似た……って、ん? 佐●健というよりも、もっと近しい人に似てるような。
何の気なしに顔を上げたら、こちら側の椅子に置いた荷物に視線を投げていたその人と目が合った。瞬間、お互いの目が大きく見開かれる。
「え。主任……?」
「……小澤か?」
左隣にいたのは、見慣れたスーツ姿の柳瀬真緒、その人だった。見慣れないのは、いつものビジネス用とは違う、首元のシルバーグレー。
「なんでこんなところにいるんですか」
「なんでって……ツレの店なんだよここ。お前こそ、なんで」
「私は……色々あってふらふらしてたら行き着いたんです」
こんなところで、まさか主任に会うなんて。ようやく休日になって、顔を合わせず済むと思ってたのに……。
そんなふうに心の中で憎まれ口を叩く一方で、内心どこかほっとしてしまったのは、あんなことがあった後に知り合いの顔を見たから。
「知り合いって、もしかしてタイガさん? えー、ここ、主任の行きつけだったりします?」
「だったらなんなんだ」
「いいお店見つけたと思ったのに! 上司が常連のお店なんて、今度から来にくいじゃないですかぁ」
私達のやりとりを、カウンターの向こうで面白そうに眺めているタイガさん。
「なになに、キミら同僚なの?」
「同僚も同僚、直属の後輩だ」
「え、何それおもしろい」
おもしろいって、タイガさん。心の声、漏れてますよ。
この2時間でそう思ってしまうくらい、ここは心地よかった。
グラスはもう底が見えている。次、何頼もっかなぁ。お酒は一旦休憩してもいいなぁ。そんなふうに思いながらメニューを眺めていた時、背後の扉が開く音がした。
「お。お疲れ」
頭上でタイガさんの声がした。気安い口調に、従業員の人が入ってきたのかなーなんて思う。
メニューをぼうっと眺めているうちに、カウンターの2つ左隣の席に腰を下ろす影が見えた。どさっと、何かを椅子に下ろす音も。
「なんか適当に酒くれ。強いやつ」
「そのオーダーの仕方、相当参ってるな」
「……うるせ」
タイガさんのお友達かな。いい声してるな。なんかちょっと気怠げな、掠れた声。俳優の佐●健に似た……って、ん? 佐●健というよりも、もっと近しい人に似てるような。
何の気なしに顔を上げたら、こちら側の椅子に置いた荷物に視線を投げていたその人と目が合った。瞬間、お互いの目が大きく見開かれる。
「え。主任……?」
「……小澤か?」
左隣にいたのは、見慣れたスーツ姿の柳瀬真緒、その人だった。見慣れないのは、いつものビジネス用とは違う、首元のシルバーグレー。
「なんでこんなところにいるんですか」
「なんでって……ツレの店なんだよここ。お前こそ、なんで」
「私は……色々あってふらふらしてたら行き着いたんです」
こんなところで、まさか主任に会うなんて。ようやく休日になって、顔を合わせず済むと思ってたのに……。
そんなふうに心の中で憎まれ口を叩く一方で、内心どこかほっとしてしまったのは、あんなことがあった後に知り合いの顔を見たから。
「知り合いって、もしかしてタイガさん? えー、ここ、主任の行きつけだったりします?」
「だったらなんなんだ」
「いいお店見つけたと思ったのに! 上司が常連のお店なんて、今度から来にくいじゃないですかぁ」
私達のやりとりを、カウンターの向こうで面白そうに眺めているタイガさん。
「なになに、キミら同僚なの?」
「同僚も同僚、直属の後輩だ」
「え、何それおもしろい」
おもしろいって、タイガさん。心の声、漏れてますよ。



