『タマちゃんって、誰のことも本気で好きにならなそうだよね』

いつだったか、よく会っていた男性に言われたことがある。
それを言ったのが誰だったのか、今はもう思い出すことすら出来ないけれど、その言葉だけは鮮明に覚えていた。

誰のことも好きにならないよ。好きにならないから期待もしない。期待もしないから、恋愛で傷つくことはない。
そうして今まで生きてきた。そうすることで、自分を守ってきた。たった1人を想ってボロボロになるのは、もう嫌だったから。

彼と出会ったのは、大学に入学してすぐの頃だった。1年生限定のカリキュラムで一緒になった、他学部の男の子。
当時大人気だった俳優によく似ていた彼は、大きな大学だったにも関わらず学部の垣根を超えて知れ渡った存在だった。
授業で同じ班になったけれど、イケメンなんてものに興味のなかった私は色目を使う女の子を横目に課題を淡々とこなした。
その様子が、彼には好印象だったのかもしれない。

【課題提出お疲れ様。班が変わる前に、もう少し話したかった】

班での活動が終わる頃、同じトークグループにいながらも追加すらしていなかった彼からメッセージが届いた。それがきっかけ。
それがきっかけで、私達の距離は一気に縮まった。
時には直接、時には電話で、色んな話をした。優しく聞いてくれる彼に私はいつしか心を許し、それまでにけして開けることのなかった蓋をも開けた。私の家庭の話を聞いて、彼は言った。

『環を1人にしたくないって思った』
高校卒業と同時に家を出た私に、それは救いのような言葉だった。期待した。この人は私の乾き切った心を潤してくれる。この人の傍に、これからもいたい。そう思った。この人ならいいと思って、初めても捧げた。
これからも一緒にいられると思っていた。

だけど、そう思っていたのは私だけだった。

『次、いつ遊ぶ?』
『ちょっとバタバタしてて、スケジュールわかんないんだ』
『じゃあ、電話は?』
『疲れてるから、また今度』

何が歪みを生んだのか、もう覚えていない。だけど彼は私の傍から少しずつ離れていった。
一度掴んだ温もりを失って、私は途方に暮れた。拠り所にしてしまっていたのだと、失くしてから気が付いた。

大切にしたかった人は、私を大切にしてくれなかった。そのことが傷になって、どうしようもなく苦しくて、私は自分のことさえも大切に出来なくなった。捧げた純潔に価値なんてなかった。私は大切にされる価値のない人間なんだ。
傷つくのならもういらない。上辺だけでいい。
男に消費されるくらいなら、こっちが消費してやる。
そう思って、適当な相手と適当な関係を持つようになった。そうすることで自分を守った。