突然ですが、契約結婚しました。

「報われないなぁ、あいつも」

何、どういうこと? 違うの……?

「タマちゃんはさ、あいつが今、どこで寝泊まりしてると思ってんの?」
「どこって……彼女の、穂乃果さんのところにいてもおかしくないなとは」
「ぶははっ! 報われねーけど、こればっかりは仕方ないな」

いよいよ意味がわからなくて、私はタイガさんに向き直った。彼は一頻り笑った後、自分を指差す。その指にはゴツめのリングが光っていて、タイガさんらしいなんて呑気に思う。

「俺のとこ」
「……へ?」

突拍子もなくそう言われ、思わず間抜けな声が出た。

「俺のところだよ、あいつがいたの。土曜日の夜に突然店に来て、家に泊めてくれ〜ってさ。おかげで俺、真緒との同棲4日目」

星マーク、再び。その星は隕石のごとく、私にぶつかった。
おどけた様子で、タイガさんが言葉を続ける。

「それを踏まえて、あいつがなんで怒ってるか、もう一度考えてやってよ」

それを踏まえて……?
頭を捻らせ、あの時の出来事を回顧する。主任はなんて言っていた?

「……昨日食べた晩ご飯が美味しくなくて」
「うん」
「味付け間違えたはずないのに、何か味気なくて、ちょっとだけ残しちゃった」
「俺も最近、同じ現象に陥ってる人見かけたなぁ」
「その人は……今も、タイガさんの家にいますか?」

私の問いに、タイガさんは口元に微笑を浮かべて首を振る。

「自分の家に帰るって、さっき連絡来てた。同棲5日目はキツいって、泊めてやったのに酷い言いようだよね」

鞄の中から財布を取り出して、千円札を数枚抜き取る。善さんには申し訳ないけれど、せっかくのカクテルも一気に飲んだ。

「ごめんなさい、タイガさん。私、帰んなきゃ」
「送っていこうか?」
「ううん、大丈夫。一人で帰ります」

一番早いルートで、一番近い道で。家の明かりは既に点いているだろうか。

「お金はいらないよ〜」
「え、でも」
「不倫デートに付き合ってくれたお礼だから。強引に連れてきちゃったしネ」

テーブルの上に滑らせたお金は、遠慮なく突き返される。
強引になんて言うけれど……本当は私達のことを心配してのことだって、ちゃんとわかってる。

「心配かけてばっかりでごめんなさい。ありがとう、タイガさん」
「俺は何も。また真緒と飲みに来てね」

ひらひらと手を振るタイガさんを残し、善さんにお礼と詫びを入れてから店を出た。駅へと向かう足は、知らずのうちに早足になる。