突然ですが、契約結婚しました。

「主任じゃなくていいんですか? まだ外回りから帰ってきてませんけど、多分もうすぐ……」
「いーのいーの。今日はタマちゃんと飲みたいの。それに、あいつとの飲みは飽きた」

なんという言われよう。学生時代からの付き合いともなると、そんなものなのかしら。
学生時代の友達とは思い出したようにしか会わないから、私にはわからない感情だ。

「明日も仕事だろうけどさ、予定ないならちょっと付き合ってよ」

語尾に星マークをつけて、タイガさんは私の腕を軽く引いた。


半ば強制的にタイガさんに連れられてやってきたのは、見覚えしかない黒い扉のお店。タイガさんは迷うことなく、勢いよく扉を開いた。

「いらっしゃいませ。……って、大河くんか」
「あからさまにげんなりしないでよ、善さん!」
「休みの日にまで職場に来るなんて、物好きだよね君」
「愛が強いって言ってよ〜」

カウンターの中には、恭サマの愛称を持つ某俳優似の男性の姿。その鋭さを宿した優しい瞳が、タイガさんの後ろに立つ私を捉える。

「お邪魔します、善さん」
「環さんまで。珍しい組み合わせだね」
「真緒に隠れて、不倫デート中なんだよ」

ね、と目配せされて思わず苦笑いを浮かべる。その様子を見ていた善さんも呆れたように笑って、正面のカウンター席を案内してくれた。

「タマちゃん、何飲む?」
「えー、どうしよう。善さんおすすめカクテルってありですか?」
「もちろん。どんなのがいいとかある?」
「青色で、さっぱりしたやつがいいな」
「かしこまりました。大河くんは、いつものでいいよね」
「うん。よろしく、善さん」

善さんがドリンクを作る様子をぼうっと眺めていると、右隣から視線を感じた。

「そんなに見るならお金取りますよ」
「怖いねぇ、俺の親友の奥さんは」

体ごとこちらを向いて、ケタケタと軽口を叩くタイガさん。私は思わず唇を尖らせ、剣呑な口調になる。

「どうせ、主任から聞いてるんじゃないんですか」
「聞いてるって何を? 家出してることとか?」
「何をって聞くわりに答えさせる気も探る気もないんですね」

私が言うと、タイガさんはまた喉を鳴らした。タイガさんはクリームのように甘く優しい。だけど、いつまでも掴めない。

「親友の奥さんなんて言いつつ、俺は今日、旦那の友達として飲みに来てないよ」
「へ?」
「タマちゃんに一切手を出さないと宣言した男友達としてここにいます」