何かが違えば存在したかもしれない、2人が隣にいる未来。
「ご飯、出来ましたよ」
「ありがとう。準備しようか」
結婚を決めた時、籍を入れるだけ、後はルームシェア感覚で、主任のことは憎い上司のままだと思っていた。
だけど、遊ぶことに疲弊して夜遅くに飲みに行くことがなくなって、主任と過ごす時間は思ったよりも多かった。その中で、色んな一面を知った。
「私も手伝いますっ」
「転んでこぼすなよ」
「もう、私のこと何歳やと思ってんの」
健太くんの時とも、──彼の時とも違う。
私は、今の生活を手放せるんだろうか。
「わ。着信めっちゃ来てる」
食後に紅茶を飲んでいた時。スマホを見た穂乃果さんが、顔を顰めた。
「旦那さんからですか?」
「そうです。どこにおるんやって、L●NEまで」
「そら連絡してくるやろ」
呆れた様子で主任が言い、穂乃果さんの表情が一層渋くなる。
「俺が悪かったって謝ってくるならまだしも、どこにおる? だけやで? そんなL●NEいっぱいもらったって、帰ろうなんか思わん」
「心配してるやろうし、一言だけでも返しといたら」
「い・や!」
「意固地になってんなー」
穂乃果さんはかなりご立腹の様子で、口先を尖らせている。主任も特段驚いた様子もなく……というか慣れた様子なので、これが平常運転なのかもしれない。
「環も何か言ってやってくれよ」
「え、私もですか?」
「あぁ。意地張るだけ解決長引くぞって」
「それ、真緒さんがそのまま言えばいいじゃないですか」
私達の会話を聞いていた穂乃果さんが、不思議そうに首を傾げる。
「真緒くん……環さんと話す時、標準語なんやね?」
「え」
「昔、言ってなかったっけ。こっちでも、気を許し──えっと、人によっては関西弁で話すって」
澄んだ疑問は、主任の動きを一瞬、封じ込めた。恐らく、会社の人が見てもわからない程度に。──だけど、目の前にいるのは幼少期から一緒に過ごしてきた幼なじみだ。
気を遣われた。──仮にも、妻の私が。
「真緒さん、会社では標準語だから、プライベートでも他の人がいる時は癖で標準語になるみたいなんです。いつもは、私に対しても関西弁ですよ」
大嘘。ハッタリ。私に対して関西弁で話したのは、たったの2回だけだ。
一度目は、あのバーで。二度目は、旅行先で。たったそれだけだということに、気付かされた気分。
「ご飯、出来ましたよ」
「ありがとう。準備しようか」
結婚を決めた時、籍を入れるだけ、後はルームシェア感覚で、主任のことは憎い上司のままだと思っていた。
だけど、遊ぶことに疲弊して夜遅くに飲みに行くことがなくなって、主任と過ごす時間は思ったよりも多かった。その中で、色んな一面を知った。
「私も手伝いますっ」
「転んでこぼすなよ」
「もう、私のこと何歳やと思ってんの」
健太くんの時とも、──彼の時とも違う。
私は、今の生活を手放せるんだろうか。
「わ。着信めっちゃ来てる」
食後に紅茶を飲んでいた時。スマホを見た穂乃果さんが、顔を顰めた。
「旦那さんからですか?」
「そうです。どこにおるんやって、L●NEまで」
「そら連絡してくるやろ」
呆れた様子で主任が言い、穂乃果さんの表情が一層渋くなる。
「俺が悪かったって謝ってくるならまだしも、どこにおる? だけやで? そんなL●NEいっぱいもらったって、帰ろうなんか思わん」
「心配してるやろうし、一言だけでも返しといたら」
「い・や!」
「意固地になってんなー」
穂乃果さんはかなりご立腹の様子で、口先を尖らせている。主任も特段驚いた様子もなく……というか慣れた様子なので、これが平常運転なのかもしれない。
「環も何か言ってやってくれよ」
「え、私もですか?」
「あぁ。意地張るだけ解決長引くぞって」
「それ、真緒さんがそのまま言えばいいじゃないですか」
私達の会話を聞いていた穂乃果さんが、不思議そうに首を傾げる。
「真緒くん……環さんと話す時、標準語なんやね?」
「え」
「昔、言ってなかったっけ。こっちでも、気を許し──えっと、人によっては関西弁で話すって」
澄んだ疑問は、主任の動きを一瞬、封じ込めた。恐らく、会社の人が見てもわからない程度に。──だけど、目の前にいるのは幼少期から一緒に過ごしてきた幼なじみだ。
気を遣われた。──仮にも、妻の私が。
「真緒さん、会社では標準語だから、プライベートでも他の人がいる時は癖で標準語になるみたいなんです。いつもは、私に対しても関西弁ですよ」
大嘘。ハッタリ。私に対して関西弁で話したのは、たったの2回だけだ。
一度目は、あのバーで。二度目は、旅行先で。たったそれだけだということに、気付かされた気分。



