秋祭りの後。

ナガレのお母さんが雇われママを
するスナックに、
行った日を
思い出していたせいだろうか。

シュウジロウが歌って、
その歌に合わせて
白組が演舞をしていると、
手拍子をする合間に、
何故か
祭りの法被姿になった
男子が、
あちこちに現れていたのだ。

「え!これ新調したヤツじゃん!
なんで着てるわけ?!え?!」

その法被を見て、
ユカが
タンバリンを光らせながら、
同じように
隣で鈴を鳴らすマアヤの手を
驚いて引っ張った。

「わかんないって。鳥嶋は?」

マアヤは左右に頭を振って、
解らないと答える。
わたしの隣で
マラカスを振るシュンも
不思議そうに頭を傾げた。

『元白組みんな!サンキュー。』

それでも
演舞をリードしてながら
応援曲をとうとう歌い終わった
シュウジロウは
MCまで
軽めにこなして、

次に部屋で
歌う相手にマイクを渡す。

部屋ごとにマイクがあるのだろう。
次の曲が流れる前に、
隣の続き部屋から
思いもしない声が聞こえてきた。

『うおーーーおい!!白組だけが
目立つなよ!元紅組の野郎達、
リニューアルしたての法被で
踊れよーー!いくぜーーー!』

虎治ダイゴのMC?!

「どうりで法被!着ているわ!」

ユカが何か納得した顔で叫んだ。

確かに
紅組の応援歌では、
法被をイメージした衣装だったと、覚えている。

中学の時はまだ、
『肥後タケル』が好きだった
わたしは、
紅組の法被で舞う
ヴィゴこと肥後タケルを、
一心に見つめていた。

だから
今でも衣装は覚えているのだ。

「そういえば、こんなフリ付け
だったな。どこか格闘技の型
みたいな、キレ技みたいな。」

シュンが
前奏に合わせて舞い始めた
フリに合わせてマラカスを振る。

紅組のフリ始まりは、
2人1組で腕を交差させたりの
ペアパートな構成。

わたしや、ユカ、マアヤも
調子を合わせて楽器を鳴らした。

長年の親友ユカなら、
わたしが中学時代に
応援合戦をした時の記録で、
肥後タケルの映る写真を
広報部から貰っていたのを
知っている。

今となれば黒歴史な思い出。

あの頃専用にしていた
肥後タケルアルバムは、
とうの昔、
あの集会の日に棄てた。

「竹花、リボンの切れ端が、
前髪に飛んでるぞ。ほら。」

気持ちを変えて、
部屋にいる紅組の子達を
見渡そうとした時、

突然シュウジロウが
わたしの前髪を示して、
手を触れた。

「え、そう?」

「ここ。とったからな。」

目の前にリボンクズを見せて、
シュウジロウは
入口に視線を投げた。

「ありがとうね、橘くん。」

鳴らしていた鈴に結んでいた
リボンの繊維だろう。
そう思って、
シュウジロウの視線の先を
見たのが、
良かったのか?それとも?

離れた入り口の辺りで、
見覚えのある姿を
わたしの瞳が捉える。

手足が長くて、
広い肩。
ナガレならではの
背格好が
わたしには見えてしまったから。

「・・・・・」

流れるようなリズムで、
ペアパートを動く

ナガレ。

全然変わらない。

中学でタケルの姿を通して
見ていた
演舞の仕草が、
虎治ダイゴの音頭のもと、

全く新しい演舞みたいに
思えくる。

一斉に揃った動きを見せて、

『『『『『破ツゞゞゞ』』』』』

突き出すスラリとした拳と、
振り上げて回す
ナガレの長い足が
空中でピタリと止まった。

翻る
紺色の布の群れの向こうで、

ナガレがわたしの視線に

キガツイタ!!


こっちに向いて、

紺色がはためく中、
お互いの視線がかち合うのが

わたしにはハッキリ一瞬で、
わかった。

何故なら

こんなにも沢山の人が

まるで時間が止まった様に
なったから。

あの振り付けを
ナガレは
こんな風に舞っていたのだと。

素直に、気持ち暖かくなる。