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現実をシャットアウトするみたいに閉じた瞼の裏で、見下ろされる気配がして――なぜか、こちらに手を伸ばされてる気がした。
きっと、勘違いだ。
事が終わって、それでもまだ私に触れる意味がない。
意味なんて、あっちゃいけない。
「……帰るの? 」
寝返りを打って目が覚めたふりをして、横を向いたまま身体を起こす。
愛情のない、ただの欲求でできていたんだと証明するように散らかった服を手繰り寄せると、後ろから声が掛かる。
「他にどうするの」
「泊まったらいいじゃん。もう遅いし、危ないよ」
「なに言って……っ」
妙な気を遣わないで、真っ裸で全部拾っておけばよかった。
あと少しで下着に届きそうだったのに、後ろから腕を引かれて倒れ込んでしまう。
「……泊まってってよ。今日はもう、しないから」
「……は? 」
脅してやった相手に、何を甘えてるの。
ううん、大体何でそんなことしてほしいの。
「人恋しくて、脅迫までしたの」
「他人は恋しくないよ。碧子さんだから襲ったし、帰ってほしくない」
「ふざけないで……っ……? 」
これは、同じ指なんだろうか。
無理やり割って、押し入ったのと――涙の跡を口にしないで、そっと目元に触れたのは同一人物のものなのかな。
「……ごめんね」
(……勝手すぎる)
そこで謝るのは、あまりに自分勝手で酷い。
無理やりした自覚があるなら、そこは踏ん反り返って最低な人間になってるべきだ。
「ふざけてないよ。おふざけで、こんなことしない。ただヤリたいだけならここまでしないし、もっと簡単な方法だってある」
だったら、それをやったらよかったじゃない。
人の弱みにつけ込んで、しかもかなり年上――他の子なら、おばさんだと呼ぶ女を捕まえて、脅さなくてもいいでしょ。
『セーンパイ。これ、なに? 』
『え、今恥ずかしがってる? 遠慮しないで、そういうとこ見せていいんだよ。我慢するのきつくない? する意味ある? ないでしょう。ほら……碧子さん』
「でも俺、してない。それだけはしたくないって……伝わらない? なら、伝えさせてよ。もう少し、俺に時間……」
―― 一致、しないから。
「……っ、さっさとやって帰るって言ったじゃない……! 」
まだ熱い体温が、ドクドクという心臓の音が。
彼が悪魔じゃなく人間だと――その言葉が嘘でもリップサービスなんかでもなく、本心だって説明してくるみたいで、思わず振り払った。
「……言ってないよ。さっさとやることやる、に賛成しただけ」
「同じで……」
「違うよ。全然」
(……何でよ)
痛そうな顔、しないでよ。
辛いのは、痛かったのは、私――……。
「……っ、ん」
「……送る。せめて、駅まで。終電、間に合ってよかったね? ……その後一緒にいたくて、我慢したんだよ。じゃなきゃ、やり続けてる」
要らない。送るとか、我慢とか。
――そんな、さも「大事にしてる」アピールなんか、今更どうして必要になるの。
そんなことされたら。
――そういえば、身体は痛くなかった、なんて思い出す羽目になる。



