「や……そんなの、いい」
「あっそ。余計したくなったから、黙って」
キスされそうになって顔を背けると、なぜか機嫌が悪くなる。
子どもだ。
当たり前かもしれないけど、会社での彼よりもずっと。
そうやって、わざとうざったかった前髪を上げ、眼鏡も外した顔は、格好いいに分類されると思う。
本当に、どうして私なのか――いくら格好よくったって、年齢は片手の指じゃ数えられないほど離れてる。
つまり、年齢的にも性格も、私には子どもだとしか思えない相手と今、セックスしてる。
「……っ」
なのに、キスの方がずっと嫌がらせになると、戸田くんは判断したんだろうか。
こんなに年下の男の子とこんなことして、背徳感が押し寄せないことこそ、どうしようもない悪人になった気がして辛かった。
「……い、ら……」
「黙ってって」
――キスも、前戯も要らない。
何なら、こんなふうにベッドじゃなくてもよかったかもしれない。
彼にも好都合だろうに、プライドでも傷ついたのか、人差し指が無理やり私の唇を割る。
左手で耳から頬、顎までを拘束すると、一度入ってしまった舌は満足げに口内で遊ぶ。
「言ったじゃん。碧子さんも楽しんだ方がいいって。俺、痛い思いさせて喜ぶタイプじゃないし。碧子さんだって、本当はそんなの嫌でしょう? ……ああ、そっか」
ほら。子どもっぽい、のに。
「……俺次第、だったね」
未だ顔を固定している手も、空いてどんどん先へ進もうとする方の手も。
どっちも嫌になるくらい、男でしかなかった。
「ほんと、何で隠してんの? 碧子さん、普通に綺麗なのに」
「……別に。わざわざ、ビフォーアフター見せて回ってないだけ」
……なら、転職先のここでは「アフター」でいてもよかったんだと思う。
ううん、だから、転職したはずだった。
「それはそうかもしれないけど。そんなに身バレしたくないんだ。まあ、だからこうしてるんだよね」
でも、性格は変わらない。
脅迫者と比べたくないけど、私もそういい性格じゃないから。
『なんだ。つまんない女』
あれは「Nami」だから綺麗なんだ。
スタイルは同じでも、綺麗なのも可愛いのも「彼女」だったんだ。
「そこまでして隠す必要あるかな。や、あって俺はよかったんだけど」
「……っ、ん、戸田くんが変な好みしてるだけっ、だし。そもそも、分かってくれなくていい」
脳内で再生してしまった声を振り切ると、今度は今、こんなに近くで聞かされている声に意識が戻る。
「はいはい。あのさ、碧子さん。黙っとこかなって思ってたけど、教えてあげる」
認めたくなかった。
知られなくなかった。
我慢して我慢して、舌を噛みそうになるほど、身体の至るところにぎゅっと力を入れてたのに。
「可愛くないこと言えば言うほど、漏れてる声が可愛くなっちゃうんですけど。……経験不足の男の子、困らせちゃダメだよ。セン・パイ」
(……そっちこそ)
――その、ほぼ童貞設定、少しは活用してみやがれ。



