「は……? 」
「ひっどい反応。少しはドキドキしてくれてもいいのに。傷つきます」
そんな提案を笑いながら言われて、ドキドキしろという方が無理だ。
「な……んで。そんなの、戸田くんがしたくないでしょ、私となんて……」
「したくなかったら言いませんし、こんな面倒なことしないです。したいから近づいたし……んー、さすがにこんなに早く脅せるとは思わなかったですけど」
「だから、なんで!? 私、戸田くんよりかなり年上だよ!? 」
「知ってます。っていうか、見たら分かります」
(……ぐっ……)
失礼だ。でも、事実。
でも――。
「でも、綺麗じゃないですか。見ましたよ。ダイエット、頑張ったんでしょう」
「え……。そ、それは、多少、わりと盛って……」
「それも分かってます。それはまあ、みんなそうなんじゃないんですか? 」
何で、脅しながら褒めてるんだろう。
いやいや、ダメだ。
絶対に、喜んでいいところじゃない。
「……だとしても、戸田くんがそんな気になる理由にならないよ。何で私……しかも、脅迫までして。もっと普通に、もっと若くて可愛い子とすればいいじゃない」
そこまでして、私である理由なんてないでしょ。
万が一にもそんな理由があるなら、尚更脅迫するわけない。
「単純に好みなんです。だから、したいなって思ってたら、ちょうど脅迫するネタができたんで。あれ、結構際どい写真も載せてますよね。だから、余計に悶々しちゃっ、」
「き、際どくない……! ただ、ダイエットの経過とか載せてたら、有り難いことに反応があっただけ!! 」
「わーかってますってば。本人はそうでしょうけど。でも、別に女しか見れないわけじゃないし。男でも尊敬して見てる奴もいるかもしれないですけど。でも、僕みたいなダサくて経験不足な男には、刺激が強すぎちゃったんです。そういう奴、多いと思いますよ。知らない間に脳内でやられてますって」
絶対、嘘。
ダサくしてるのも、わざとに決まってる。
そんな本当にあんまり経験がない人が、会っていきなり脅したりする?
したら、犯罪じゃない。
「ねーえ、先輩。責任、とって……? 」
「……いみ、わからな……」
写真見て、その人――SNS上で生きてる、「nami」を望んでるなら、まだ分かる。
でも、戸田くんは、なぜかそれより前に私に目をつけていて、脅すネタができたと楽しそうに口元を歪ませて。
(……ほんと、何でこんな安直な名前にしたんだろ)
どんなに違っても、誰も気づかなくても。
「私」でいたかったってことなのかもしれない。
それを脅迫されて認めるなんて。
「拗らせた、ほぼ童貞を煽るからいけないんですよ。ミスするたび、困ったなめんどくさいな、でも優しくしなきゃって、あの顔。堪んなかったです」
「…………童貞とか、嘘だよね」
「ほぼをどれくらいに取るかによりますね。それより、先輩。んーと、碧子さん」
何で、下の名前まで。
「メーリングリスト見れば分かる。ほんと、そんなことより」
――で、どうするの?
「するの、しないの? 選んでくれなきゃ、ここから動けないじゃないですか。……それによって、行き先変わるんだからさ」
――で、やるの、やらないの、どっち?



