「そんなに、きょろきょろしなくても。っていうか、逆に怪しいですよ」
わざわざ一度別れて、待ち合わせしたみたい――みたいじゃなくてそうなんだけど、認めたくないし誰にも見られたくない。
「どういうつもり? 脅迫するほど、私ひどいことした? 叱ったりしたかもしれないけど、別に好きで注意してるわけじゃ……」
「分かってますって。全然、ひどいことなんかされてませんよ。寧ろ、優しかったですよね。僕がおちょくるように間違っても」
「え……じゃあ、なん……おちょくる……? って、わざとミスしてたってこと!? 」
一体、何の為に。
怒られるの分かってて、自分の評価まで下げてまで私をからかう意味って何なの。
何にせよ、人を馬鹿にしすぎてる。
こんな奴、どうにかして本性バラしてやる――……。
「やだなぁ。脅迫なんて、まだしてませんって。これからしようと思って呼び出したのに、先輩、せっかちですね」
「……っ、だから、なんで!? 私なんか脅迫したって、
面白くないでしょ。何もできることないし、戸田くんにメリットないじゃない。それに、自分で言ったよね。キャラ云々は、お互い様よ」
怯むな。
秘密なんて、誰にだってある。
第一、意味不明だけど、キャラ作ってるのは戸田くんだってそうなんだから。
「イーブンじゃないでしょう、先輩。先輩が喚いたって、誰も信じませんよ。僕がわざとミスしてたなんて、どうやって証明するんですか? それに、このキャラ楽しくて気に入ってるってだけだから、先輩が忠告無視してバラすんなら、それはそれで。ただ、その時は覚えててくださいね」
会社からの帰り道、途中立ち止まって騒ぐ私の耳元で囁く姿は、端から見るとどう映るんだろう。
まさか、「怒ってる彼女を宥めてる彼氏」に見えたりするのかな。
年齢差なんて好きなら関係ないけど、私は今戸田くんが大嫌いだ。
でも、こんなに近くに身を寄せてるのは、他人や単なる知人ではありえない。
「え、本当にそこで大人しくなるんですね。変なの。別に、裏の顔があるってだけなのに。じゃあ、先輩。僕のお願い、聞いてくださいよ」
「……な、なに……」
目を丸くしたのも、その後すぐにすっと細くなったのも。
どっちも腹立たしいのに、それこそ大人しく要望を尋ねてしまう。
「あのね、先輩。もし、嫌じゃなかったら……」
――黙っておく代わりに、俺と寝てよ。



