隠れSだって、優しくしたい!!(……らしい)









(……はぁ。疲れた)


休憩室の自販機の前で、こっそり息を吐く。


(主任、ただ面倒なだけじゃん)


グチグチ言う間に、処理してくれたらいいのに。
大体、注意したがりなんだよね。
って、正直それも一理あると思うけど、ミスはミスだし、私のミスでもある。
彼が着手する前に、ざっと目を通してあげたらよかったかもしれないし、もう少し側で見てあげるべきだったかも。
何より、先に質問しにくいのは、私の雰囲気が悪いのかもしれない――けど。


(それが一番重要ぽいのに、どうしたらいいのか分からない……)


コン、と落ちてきた缶を拾うのも億劫で、既に持っていたスマホのロックを解除する。
開いたSNSの自分のアイコンを眺めて、もう一度溜息。
気持ちを切り替えた気になって、やっとコーヒーを取ろうとしたら。


「あっ」


疲れてるのか、意識が薄れた反対の手の力が抜け、スマホが床に転がってしまった。

大丈夫、傷はついてなさそう。
でも、早く拾わないと――。


「あ」


しゃがんだ格好で、スカートに気をつけて手を伸ばしたのがいけなかったのか、一瞬早く誰かに拾われてしまった。


「す、すみません」


男物の靴が目に入り、慌てて立ち上がるとそれは。


「お疲れさまです」


――戸田くん。


「お、お疲れさまです。あの、それ……」


挨拶してくれた時の違和感を、私は一生忘れないだろう。


(何か違う、何かおかしい)


確かにそう感じたのに、わざわざ本人に確認する必要もなければ、そんなの言えるはずもなかった。
それに何より、私はそれどころじゃないくらいヒヤヒヤしてて――……。


「ああ、はい。どうぞ」


すんなり返してくれて、ほっとする。
ううん、そんなの当たり前だ。
落とし物を、目の前の持ち主に返すなんて。
大体、ただのスマホだ。大したものじゃない。
なのに、その顔を見た瞬間にニヤリと笑って――受け取るほんの手前で、その手を引っ込めた。


「これ、浪川さんですよね。顔、隠れてるけど。すごいフォロワー数。……へぇ、会社とは全然違うんですね? Nami、さん。って、まんまじゃないですか」