くすぐったい。
目が覚めてきたのに瞼を開かないのは、まだ知らずにいたいから。
不快な感じじゃなくて、心地いいとすら肌が感じるのは、くすぐってるわけじゃなく優しく触れようと気を遣った結果なんだってこと。
「寝たふり、下手っぴで可愛い。けーど。あんまり焦らすと、堪え性のない俺は襲っちゃう。分かってると思うけど、碧子さん見下ろしてるだけで……あ、また、た……」
(……こっちは、無理だから……!!)
「あ、本当に起きてた」
目をパチっと開けると、すぐそこで戸田くんの目も丸くなってる。
「何で、そんな可愛いの。そんなことされたら、いじめたくなって困るんだけど」
組み敷いたまま、くくっと真上で笑われて顔を背ける。
年下で、会社の後輩に可愛いとか言われていい気分じゃないのに。
耳を緩く噛まれて、脳が一瞬でこれまでの経験を振り返ろうとする。
「ちょっと……っ」
「ん? 起きるの待ってたんだから、これくらい許して。味見で我慢してあげてるんだよ。……こら、暴れないの。上に乗られてんのに、碧子さんの力じゃ無理だって。……ほら、またそんな可愛い煽り方してると……」
してない。
寧ろ、全力で押し返してる……のに!!
「……何なら、朝からまるっといただいちゃってもいいんだよ? ね、どっちがいいの。希望聞かせて、碧子さん」
「じょう、だん……っ」
「の、わけないじゃん。腕ぷるぷるしちゃって可愛い。でも、痛いよね。はい、やーめ。よしよし」
限界を迎えてカクンと落ちた腕をよしよしと撫で、ぺたんと肌がくっついてしまいそうなほど、上から距離を詰めてくる。
「ん……も、む……」
無理だ。
愛しいって、可愛いって言われるみたいな甘噛み。
錯覚なのか、希望なのか。
それとも、本当にそうなのか――何にしても察してしまう私こそ、動物みたいで恥ずかしくて堪らない。
「了解。しないからさ。……だから、キスさせて」
一転。
そっと口づけられるのは、人間の――愛情が込められたものみたいで。
(……この子、本当に私のこと好きなの……)
そう思ってしまう。
「ねえ、碧子さん。服着たいとか思う? 」
「お、思う!! 」
このままだと、どっちにしろ味見に留まらなくなりそう。
つい全力で返事をすると、笑って頬を撫でられた。
「やっぱ、そっか。じゃあ、デートしよ」
「は? 」
ベッドに両手をついて、閉じ込めてる人が言うことじゃない。
「もー、またそんな顔する。好きな子デートに誘ってるだけ。普通で当たり前のことでしょう」
「……この状況じゃなかったらね」
付き合ってもないのに、真っ裸でデートに誘うとか普通じゃないし、当たり前なんかじゃない。
「なに。服いらないって? 碧子さんがそう言うなら、それもいいか。やって休憩して、イチャイチャして、で、またや……」
「……外行く……」
首筋に前髪が触れそうなくらい降りてきて、苦渋の決断みたいな声を出したはずなのに。
「デート、ね。ほら、言ってみて。一穂とデートしたいって」
「……注文増やさないで! 」
(……なんで嬉しそうなの)
可愛くなくて、希望とは全然違う反応でしょ。
どうして、そんなくすぐったそうに笑うの。
「ほら、行こ」
もう何度目かキスして、ゆっくり起こしてくれて。
「碧子さん」
背を向けた瞬間に、もう一度後ろから抱きしめられた。
「好きだよ。……デートできるの、すっごい嬉しい」
ものすごく幸せって顔、直視できない。
だから、まだ、ベッドの上で抱かれたまま。



