そんな、少し前のことをぼんやり思い出していた。

「由利ちゃん、わざわざ俺に会いに来てくれたの?」

屈託のない笑顔で私の頬に触れようとしたけれど、両手とも油まみれだと気付き、残念そうに引っ込めるヒロくん。

「だ・か・ら!私はただクッキーを持ってきただけで…」

「嬉しいなぁ、由利ちゃんの手作り?」

「…お母さんのね」

「うん、そうだろうなとは思ってた」

「じゃあ聞かないでよ」

「由利ちゃん、昔から優等生だったのに、家庭科の成績は壊滅的だったもんなぁ。調理実習の時、いつも味見しかしてなかったよね。体育も酷かったけど。顔面でボール受けるわ、平均台から落ちるわ、跳び箱にぶつかって倒れるわで、いつも俺が保健室に連れて行く役だったよね」

「…ええ、お世話になりました」