○○○
つい数日前に今年初めての雪が降ってから、身体の芯から冷えていくような気温が続いている。
ちらほらと雪も降っており、もうじきあたり一面を覆い尽くすほど積もりそうだな、と。
城内を歩きながら左之助はふとそう考えていた。
(もう息も真っ白だ……)
吐いた息が白くなって空へと昇っていくのを見ながら、左之助は両手の荷物を持ち直した。彼の手には今、主人である為景から町へ取りに行くように指示された品物がみちみちと鎮座している。
墨に筆に香に和紙に羽織に……。
今日も今日とて、左之助は為景から頼まれた雑用をこなすばかりである。
(買い忘れたものは、ないよな?)
ため息をついて、虎のような迫力をした姫の顔を思い出す。
なぜ自分は今こんなことをしているのだろうか。少し前までは大殿直属の忍び隊で、他国の諜報員などを始末していたというのに。
新しい主人である姫から下される命令は、いつまで経っても侍女や丁稚にさせるようなものばかりだった。
『上月、今晩の飯の材料買ってきてくれ』
(……いや、あの時暇をしていたのは俺だけだから仕方ない)
『上月、蔵から炭を取ってこい。菖蒲とお前と私の分だ』
(……女所帯で男では俺だけだからな。炭は重いし量が必要だし)
『上月ぃ!! 床の間の掛け軸が季節外れだ! さっさと替えろ!』
(………………)
(………………だー!! くっそ! 田舎育ちの俺に掛け軸の季節なんか分かるわけないだろ!!)
今日言い渡された仕事を思い出して、左之助は誰もいない道で地団駄を踏んだ。
最近、為景から声をかけられるたびに、左之助はこう思うのである。
(これが、忍びのすることか……!?)
為景と出会ってから数日が経つが、屋敷と市井との往復が、最近の左之助の主な仕事となりつつある。
正直、誰にでもできるような仕事ばかり任されている現状に、左之助は不満がつのるばかりであった。
また一つ、左之助は大きなため息を吐いた。
つい数日前に今年初めての雪が降ってから、身体の芯から冷えていくような気温が続いている。
ちらほらと雪も降っており、もうじきあたり一面を覆い尽くすほど積もりそうだな、と。
城内を歩きながら左之助はふとそう考えていた。
(もう息も真っ白だ……)
吐いた息が白くなって空へと昇っていくのを見ながら、左之助は両手の荷物を持ち直した。彼の手には今、主人である為景から町へ取りに行くように指示された品物がみちみちと鎮座している。
墨に筆に香に和紙に羽織に……。
今日も今日とて、左之助は為景から頼まれた雑用をこなすばかりである。
(買い忘れたものは、ないよな?)
ため息をついて、虎のような迫力をした姫の顔を思い出す。
なぜ自分は今こんなことをしているのだろうか。少し前までは大殿直属の忍び隊で、他国の諜報員などを始末していたというのに。
新しい主人である姫から下される命令は、いつまで経っても侍女や丁稚にさせるようなものばかりだった。
『上月、今晩の飯の材料買ってきてくれ』
(……いや、あの時暇をしていたのは俺だけだから仕方ない)
『上月、蔵から炭を取ってこい。菖蒲とお前と私の分だ』
(……女所帯で男では俺だけだからな。炭は重いし量が必要だし)
『上月ぃ!! 床の間の掛け軸が季節外れだ! さっさと替えろ!』
(………………)
(………………だー!! くっそ! 田舎育ちの俺に掛け軸の季節なんか分かるわけないだろ!!)
今日言い渡された仕事を思い出して、左之助は誰もいない道で地団駄を踏んだ。
最近、為景から声をかけられるたびに、左之助はこう思うのである。
(これが、忍びのすることか……!?)
為景と出会ってから数日が経つが、屋敷と市井との往復が、最近の左之助の主な仕事となりつつある。
正直、誰にでもできるような仕事ばかり任されている現状に、左之助は不満がつのるばかりであった。
また一つ、左之助は大きなため息を吐いた。
