代わりなんていくらでもいるようなものに、そんな大層な言い方するなよ。
地面にのめり込むような感覚に陥る。わたしは、そこからもがくようにひゅっと息を吸い込んだ。
「大層じゃなくても、頑張って楽しく仕事してるよ。……そうやって、自分の価値観が全て正しくて、悪いのはわたしが家事ができなくて、妻の分際を弁えてなくて、人間として劣ってると思い込んでるあなたの方がよっぽどみっともないわよ!」
カチャンと鋭い金属の音がした。
同時に目の前でオレンジ色が弾ける。
夫が、口に入れようとしたオムライスをスプーンごとわたしの顔に投げつけたのだ。
からんからんとリビングにスプーンがころがる。赤いご飯が線状に飛び散っていた。
ケチャップライスの甘い香りが漂う。
夫に目をやると、真っ赤な瞳を開いて肩で息をしている。
わたしは無言で洗面所に走った。
鏡には、ごはん粒をたくさんつけた、間抜けな顔の自分が映る。怒りよりも、情けなくて、涙がじわりと浮かぶ。
(ダメよ、いま泣いたら)
大急ぎで顔を洗い、タオルで覆う。息をするとそのまま号泣しそうだから、息を止めたまま、玄関へ向かった。
帰ってから置きっぱなしだったバッグを引っ掴み、そのままドアの外へ出る。
どこ行くつもりだよ、という声を置き去りにして、わたしは家を飛び出した。



