フラれた後輩くんに、結婚してから再会しました



わたしの夫に向かってまっすぐな瞳で穏やかに、でもきっぱりと伝える。

「こんな素敵な方が奥様で、とても、羨ましいです。ぜひ、大切になさってください。後輩として、おねがいします」

駅前の、なんでもない道。道ゆく人もいるなか、上月くんはかっちりと角度をつけて背中を曲げ、夫に頭を下げた。

わたしは、その背中をきっと、一生忘れない。
胸が熱くなるのと同時に、ぎゅうぎゅうと痛くなる。

感謝とか、申し訳なさとか、そして、置いてきた恋心とか。何もかもで全身がぐるぐると巻かれてゆく。

そして、こんなことを言わせた自分にも、夫にも腹が立っていた。

「オーナー。ありがとうございます。これからも、お店でがんばるので、こちらこそ、よろしくお願いします」
わたしは肩に置かれた手を外し、夫に向きなおった。
「わたしは帰るけれど、あなたは?」
上月くんに気圧されたように立ち尽くしていた夫は、そそくさと歩き出す。

「上月くん、今日はありがとう。それから、いろいろごめんね」

そう告げるのが精いっぱいで、わたしは夫の後に続いた。
背中で、顔を上げた後輩くんが、瞳を揺らして私たちを見送っているのが痛いほどに感じられた。