フラれた後輩くんに、結婚してから再会しました


 カフェの自動ドアから姿を見せたのは、きっちりと眼鏡をかけ、朝出かけた時と同じスーツ姿の夫だった。
わたしには全く気づかない様子で反対方向へ背を向ける。

「裕一ってば」

電話を片手に掴んでいて、いつもよりだいぶ慌てた様子の彼は一瞬、自分の名を呼ばれてぎくりと肩を揺らした。立ち止まり、ゆっくりこちらを振り返る。

「莉子……」
「今日、遅くなるって言ってたのに、もうこっちまで帰ってきてたんだ? 仕事、早く終わったの?」

わたしは彼に近づいた。裕一とこんなところで会うのはとても珍しい。彼の会社はこの駅とは反対方向だし、電車で四十分ほどかかるのに。取引先に行っていたのだろうか。
「まあ、そんなところだよ。それより、君こそなにやってるんだ。パートはだいぶ前に終わってるんじゃないのか?」
「なにって……。買い物とか、お茶とか色々だよ。今日は、裕一ご飯いらないって言ってたからすこしゆっくりしてたの」

携帯にちらりと目をやってから裕一は冷ややかな目をわたしと、隣の上月くんに向ける。

わたしは、買い食いがバレた小学生のように縮こまってしまう。彼の一番嫌いな、「食事の用意をせずに遊びまわる奥さん」
をやってしまっているからだ。
「あ、えと、こ、こちら、わたしの職場の方だよ。お店のオーナーの上月さん」
わたしは夫に、上月くんを紹介した。そして、彼には
「夫……です」
と手で指し示す。