「おいしそ……」

 二人で顔を見合わせる。思わず見惚れてしまいそうな見事な色合いのパスタと熱々のバゲットを味わいながら楽しくおしゃべりをしていると不意に吉野さんが顔を上げた。

「ね、蔭山さん、今日って夕方から時間ある?」
「え? 夕方、ですか……?」

 今日は金曜日だ。昔はよく仕事終わりに同僚とご飯に行ったものだが、結婚してからは、裕一が帰る前に家にいることが当たり前になっていた。

「そう。今日ね、六時から駅前のレストランで小さなライブイベントがあるの。チケットとってたんだけど、行けなくなっちゃって。子どもの塾が臨時休講なのよ」

 吉野さんは残念そうに食後のアイスティーに口をつけた。