フラれた後輩くんに、結婚してから再会しました


わたしは当時を思い出しながらふと、気づいた。卒業の頃といえば、彼に告白した時期と重なる。このまま、その話題になるのはさすがに避けたい。あの話は、どうしてもしたくなかった。

「そ、そ、その腕時計、すごくカッコいいね。できる大人の感じがする」

わたしは思いっきり大胆に話を切り替えた。重厚感があって、どんな男性の手元もスタイリッシュに変えてしまいそそうな腕時計に視線を合わせる。彼ははじめきょとんとしていたが、「ああ、これですか」と時計のブランド銘をあげた。
ぜんぜんピンと来ない名前だったけれどきっとものすごく高いのだろう。

ふと、夫がいつもつけていた時計を思い出した。これとはもちろん値段はだいぶ違うのだろうけど、一緒に選びに行ったのだ。そういえば、最近はつけていない。と思う。そもそも彼の顔色以外、じっくり見る機会がなくなってしまった。

外見はこの仕事で結構大事ですよ。信頼とか、繊細な取り引きの時の駆け引きとかね、と上月くんは運ばれてきたスイーツや、お皿などをさりげなく観察しはじめた。

「そうなんだ。確かに、オーナー。すごい敏腕に見えます」
「なんですか、馬子にも衣装ってやつ?からかってます?」