「毎日、忙しい?」

知らず、気遣うような声になってしまう。彼は形のいい片眉をあげ、心配してくれるんですか?と微笑む。

「まぁ、新しい店の交渉とか……色々やることはあります。親の事業にも関わっているので」
「あ、そうだったんだね。今はご両親のお仕事もやってるんだ……」

高校の頃、彼はご両親と疎遠だったはずだ。かなり忙しくされていて、あまり息子に関わることができなかった。部活の連絡事項などは全て彼のお祖母様に伝えていて、お弁当からなにから、全部おばあちゃんが準備してくれていたみたいだった。彼は、とてもおばあちゃん子だったのだ。

「……お祖母様、今もお元気なのかな?」
「ええ。今も、ぼくを子供扱いしますよ」

彼は苦笑いする。
「一度、倒れてしまってからは、車椅子なんですけど」
「そ、うなの?」
「ちょうど、先輩たちが卒業する年です。あのときは生死を彷徨ってた感じで……」
彼はふっと表情を暗くした。何か思い出したのだろう。
「この先、どうなるかわからなくて、すごく、気持ち的に大変でしたね。でも、生きててくれて、本当に安心しました」
「そうだったんだ。お祖母様も、とても頑張られたんだね……」
「いまは、僕の弁当を作ることもなくなって、逆に寂しそうにしてますけど」
「お弁当かぁ、懐かしいな……」