「駅前にできた新しい店」というのは、わたしがSNSで見つけた、マフィンとプリンのカフェのことだった。

『Blue』を出て、上月くんと歩き目的地に着いたところで、わたしは驚いた声を出した。

「ここ……! 今日行こうと思ってたお店だ……です!」
「あ、本当? それならよかった。やっぱり、この辺りの地域の人たちも注目してるってことですから」

彼は安心したように笑って店の外観を眺める。なんの気無しに眺めてるだけのように見えて、きっといろいろなポイントをチェックしているのだろう。こういうときは車は使わず、街並み含めて体感するようにしているのだそうだ。
それは、店内でも同じで、ゆったりとした長椅子や、アンティーク調の調度品を見る視線のなかに、きちんとお仕事目線が混じっている。時おりちらりと目つきが変わる彼を、わたしはとても興味深く見ていた。

「なんですか……。恥ずかしいんでやめてください」

とうとう上月くんは音を上げたように鼻の頭をぽりりとかいて、わたしにメニューブックを渡してきた。