「もちろん、周りのスタッフも皆同意見ですよ。新人さんがどんな様子か把握するのは、店の持ち主としては当然ですからね」

さらりと「オーナー」は微笑む。
「だから、そんな話じゃないんですよ。あのですね、」
「オーナー! 蔭山さん行けそうですか?」

店長の黒田さんが廊下の向こうからやってきた。片手にはタブレットを掲げている。
「今、聞いてるところだ。彼女、時間はあるって言ってくれたよ」
「そうなんですね。でしたらここに地図がのってますから……」

二人がなにやらタブレットを覗いて話している。わたしは訳がわからず、きょとんとしてしまう。

「えと、なんのお話だったんでしょうか……?」
「新しくできたカフェの偵察……、かな」
「え」

黒田さんが不敵に微笑む。
「駅にできた新しい店、ちょっと目立ってるでしょう?
早めに行ってメニューをチェックしとかないと!」

「この付近の新店舗はどれもライバルになり得る。外観から客層まで掴んでおくのは当然だよ」
オーナーも頷いていた。

「店のサイト見るだけじゃわからないから、当然試食もするんだ!もちろん、これは仕事だからね!」
興奮気味の黒田店長は少ししょんぼりしてしまった。
「けど、全部僕が行くわけにもいかない。本当は全部食べたいけど。だから、新店舗ができたらスタッフみんなで順番に視察に行ってるんです。今回は、新人の蔭山さんにもぜひ参加してほしくて」