どんどんマイナスの方向に考えが傾いていく。気を使う相手と暮らしていくうちに、まず、自分が悪いのかもと考える癖がついてしまっていた。

「そんな顔しないでください。勤務態度についてのクレームだと思うくらい、なにか思い当たるところでもあるんですか?」
「え? ……いえ。思い当たることは特に、ないんですけど、でも」

オーナーは落ち着いた声でわたしを遮った。

「それなら、自信持ってください。貴女は今までにそんなトラブル起こしたことないでしょう? 前の職場だってそうだったはずです」

彼は少し間を置いてから、わたしの目をまっすぐに見る。

「大丈夫。蔭山さんは、良いお仕事されています。貴女は、きちんとしている方ですよ。従業員としても、人間としても」
「……」

きゅうに、鼻の奥がつん、とする。身体じゅうの水分が、瞳に集まってくるみたいだ。わたしは、湧き上がってくる涙と、嗚咽を堪えるのに必死だった。俯いて、大きく、大きく深呼吸する。

なん、で……。この男性(ひと)は。

わたしの、一番柔らかく脆いところをそんなふうに包むんだろう。毎日のように、君はダメだと言われているのに。

「な、んで……。そんなこと、わかるんですか」
「なんでって……。離れてしばらく経ってるけど、俺、ずっと先輩のこと見てたから。人間てそんなに急に変わらないでしょ」

少し低い声。
真面目な顔をして後輩くんはそう言った。