「蔭山さん。二番テーブルさんにこちらお願いします」
「お客さまお帰りですので、お会計お願いします」

ランチタイムの店内は平日とはいえ主婦やお昼休憩のビジネスマンまで、いろいろなお客で活気付いていた。

「はい! 少々お待ちくださいませ」

わたしは女性用の真新しいカマーエプロンを身につけ、忙しく歩き回っていた。新しく『Blue』での仕事が始まって三週間、覚えることが多すぎて、いっときは頭のなかがパンクするかと思ったけれど、ようやくほんの少しだけ、慣れてきたような気がする。数ヶ月前まで働いていた、イタリアンのレストランでの動きを身体がおもいだそうとしているみたいだった。

わたしの仕事はお客様のご案内から、料理の運搬、レジで会計の対応など、ホール業務全般だった。
パートタイムで働いていた女性が、娘さんの高校受験のため、通塾の送り迎えなどのサポートに専念したいとのことで、退職したのだ。わたしはその代わりだった。『Blue』の店長、黒田さんはわたしの勤務希望を出来るだけ聞いてくれて、慣れるまではと周りのスタッフさんたちが丁寧にサポートしてくれた。

(とても、皆んなの雰囲気が良いお店だな。すごく働きやすい環境だし)