「それで、やっぱり勤務時間は昼間ですか?」
「うん。夕飯前には帰りたいって希望出したよ」
「そうですよね。……、主婦の方は、お子さんの関係がありますもんね……」

彼はためらいがちに尋ねてきた。さっきの、黒田店長とは少しニュアンスが違う。どこか、探るような声音だった。

「ううん。うちには、子どもはいないよ」
「あ、……そ、うなんですね。えと、ごめん、先輩……。変なこと聞いて」
「ぜんぜん! 気にしないで。上月くんのところは?」

焦って申し訳なさそうに眉を下げる彼に、わたしも思い切って尋ねた。
ハンドルを握る彼の腕を見る。袖口から伸びた手首には、男らしい節が浮いていて、サックスを大切そうに奏でる手がとてもセクシーだったことを思い出した。だが、その左手の先、薬指に指輪はない。

「子ども、いないよ。……それに、バツイチなんだ、僕。妻とは随分前に別れた」
「え」

心臓が大きく波打った。聞いてはいけないことを聞いてしまった気がする。