「あのときのこと、俺、……僕、今でもたまに思い出しますよ」
上月和真は、あの夏とおなじ、翳りのない澄んだ瞳でそう告げた。
「や、だ……。わたしのめちゃくちゃ間抜けなお芝居のことでしょ? わたしは死ぬほど忘れたいよ」
心がザワザワと音を立てる。わたしはごまかすように手を横に振って、ストローでまたぐるぐるとグラスをかき回した。
「ほんと、なんであんな変なこと言ったのかな……。もうちょっとこうね? スマートに後輩を救い出したかったな」
「えええ? そんなことないですよ。あの、妙に切羽詰まった感じが良かったんですよ。……ま、パトカーが現れた時はマジでビビりましたけどね」
彼はくすくすと笑う。もう、あの反抗的な態度はカケラもない。実際、その日から彼は不良のグループを抜け、部活に真面目に取り組むようになった。そして、最終的には自分の代で部長をしっかりと務め上げたのだ。
「私が改心させたんだもんね?」
悪戯っぽく笑ってみせる。彼は照れ臭そうに頭をかいた。



