フラれた後輩くんに、結婚してから再会しました

はあはあと荒い息を吐いて、ようやく立ち上がったわたしに、彼は驚いた声で聞いてきた。

「な、な、なにって……! たっ、助けたんでしょっ……。上月くんがめちゃくちゃ絡まれてたから!
どっかに連れて行かれるって!怖かったんだから!!
『なんすかいまの??』じゃないよ!!ていうか!
わたしの名前知ってるんじゃん!! ぜんっぜん部活来ないから、わたしのことなんて知らないと思ってたよ!!」

わたしは半泣きで、彼に八つ当たりするみたいに噛みついていた。彼はまだ、呆気に取られた表情を貼り付けている。 やがて彼は、ぷぷ、と吹き出して、やけに柔らかい声でこう言ったのだ。

「知ってますよ。フルートの、朝比奈莉子センパイでしょ」

ぶっきらぼうで攻撃的な今までの彼とは想像もつかない、翳りのない潤んだ瞳で、上月くんはわたしを見ていた。

「助けてくれたんですね。ありがとうございます」

心がきゅるんとするのはこういうことだ。

と十七のわたしは初めて知った。助けてくれた相手に恋するのは、漫画でも映画でも王道だけれど、わたしは助けた相手に心を持っていかれたのだ。