フラれた後輩くんに、結婚してから再会しました


 というぶっきらぼうな挨拶の割に、楽器を触っているときは真剣な表情をしていた。それ以外は何事にも興味なさそうで、物憂げな雰囲気の彼のことを、わたしも遠巻きに眺めるだけだった。

彼はなかなか周囲に馴染めなかった。練習にはほとんど来ない。楽器ごとのグループ練習のときも好き勝手している。ただし合奏になるとずば抜けて上手いので、どうしても主要パートを任せることになる。
上月和真という一年生を、どんな風に扱っていいのかわからない状態が夏くらいまで続いていたのだ。

その日の夕方も暑かった。わたしは友達と分かれて家へと急いでいた。駅から家までの十五分くらいの道、これが一番辛いのだ。

(なんで自転車パンクしちゃうかなぁ。ほんと最悪……。お腹すいた)

制服のブラウスはじっとりと湿って気持ち悪い。風のない中で我慢できなくなって、自販機で炭酸水を買いキャップを開けようとした、そのとき。

「お前さぁ。マジで、俺らから抜けるとか、ありえねーから」
「和真ちゃんさ、そんな話しいいから、早く遊びに行こうよ。今日も奢ってよ、センパイたちにさ」

妙に甲高い声と、嫌な笑いが聞こえてきた。